
「もう一度、あの大きな手術をするしかないのでしょうか?」
こんにちは。世田谷人工関節・脊椎クリニックの脊椎脊髄外科専門医の大友 望です。
これまで7回にわたりSCS(脊髄刺激療法)の基礎知識やメリットを解説してきましたが、今回は当院でも非常にご相談の多い「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」についてです。
少し歩くと足が痛くなり、休むとまた歩けるようになる(間欠性跛行)。 この辛い症状に対し、「手術を勧められたけれど、どうしても骨を削りたくない」「数年前に手術をしたのに、また痛みと痛みが再発してしまった」と悩んでいる方は少なくありません。
今回は、大きな手術(固定術など)を回避したい方、あるいは再発してしまった方に向けたSCSのアプローチについてお答えします。
Q1. 脊柱管狭窄症の手術(固定術など)をしたくないのですが、他に方法はありますか?
A1. 麻痺などが進行していなければ、SCSによる「痛みのコントロール」という選択肢があります。
脊柱管狭窄症の一般的な手術は、神経の通り道(脊柱管)を広げるために骨や靭帯を削ったり、不安定な背骨を金属のボルトで固定したりするものです。根本的な解決にはなりますが、「体への負担が大きい」「手術が怖い」と感じるのは当然です。
もし、足に力が入らない(麻痺)や排尿障害といった緊急性の高い症状が起きておらず、「痛み」や「しびれ」が主症状であれば、いきなりメスで大きく切るのではなく、SCS(脊髄刺激療法)で痛みの信号だけをブロックし、快適に歩けるようにするというアプローチが可能です。
SCSで腰や足の痛みやしびれが軽減することは知られていますが、最近は歩行機能や運動能力の改善という効果も注目されています!
Q2. 以前、狭窄症の手術をしたのに再発しました。SCSは受けられますか?
A2. もちろん可能です。むしろSCSが最も得意とする分野の一つです。
一度腰の手術をした後、痛みやしびれが出てしまうことや、それらの症状が残ってしまうことは「FBSS(脊椎手術後疼痛症候群)」と呼び、残念ながら脊椎手術の後に一定数の患者様に起きる症状のひとつです。 再発した場合、再び骨を削る再手術(追加の手術)を行うと、初回よりも癒着が強く、合併症のリスクが高まる傾向にあり、必ずしも再手術が最善策と言えない場合もあります。
そこで、患部を直接いじらずに、背中の少し離れた場所から神経にアプローチするSCSが非常に有効な治療法となります。
Q3. 「ボルト固定」と「SCS」、体への負担はどう違いますか?
A3. 手術時間、出血量、入院期間、すべてにおいてSCSの方が圧倒的に低侵襲(負担が少ない)です。
ボルトを入れて背骨を固定する手術(固定術)は、全身麻酔で数時間かかり、術後もコルセットをして骨がくっつくまで数ヶ月の安静とリハビリが必要です。 もちろん不安定性があるなど、ボルト固定が第一選択となる場合は少なくありません。
一方、SCSは骨を削ることもボルトを入れることもありません。トライアルであれば時間は15-20分程度、本植込みも1時間かかることはなく、出血もごくわずかで済みます。
そして何より、第5回でお話しした通り「まずはトライアル(お試し)をして、効果がなければ元に戻せる」という可逆的であることが、固定術との決定的な違いです。
Q4. 狭窄症が「治る」わけではないのに、SCSをやる意味はありますか?
A4. 狭窄自体はそのままでも、「痛くなく歩けるようになること」が本当の目的ではないでしょうか。
SCSは、飛び出た骨や靭帯の厚みを元に戻す(狭窄自体を治す、脊柱管をひろげる)治療ではありません。
しかし、患者さんが本当に望んでいるのは「レントゲン画像の骨を綺麗にすること」ではなく、「痛みを気にせず、スーパーに買い物に行きたい」「家族と一緒に旅行で歩き回りたい」という生活の質の向上のはずです。
SCSで痛みがコントロールできれば、その目標は十分に達成可能です!
まとめ:ボルトを入れる前に、一度立ち止まって考えてみてください
脊柱管狭窄症の痛みに耐えかねて、「もう手術しかない」と思い詰めるお気持ちはよくわかります。 しかし、体に大きな負担をかける「不可逆な(元に戻せない)大手術」を決断する前に、一度当院へいらしてください。
脊椎外科専門医の視点から、あなたにとってSCSが良い適応となるか、それとも通常の手術が必要か、フラットな立場で最適なアドバイスをさせていただきます。
次回は、「年齢」で手術を諦めている方へ。 「80代・90代でも手術できる?高齢者の『治らない腰痛』に、体への負担が少ないSCSという選択」についてお話しします。
参考文献
- North RB, et al. Spinal cord stimulation versus repeated lumbosacral spine surgery for chronic pain: a randomized, controlled trial. Neurosurgery. 2005;56(1):98-106.
- Zucco F, et al. An observational retrospective/prospective registry on spinal cord stimulation in Italian patients with severe neuropathic pain. Neuromodulation. 2015;18(5):361-71.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医