
SCSは「生活を制限する」ものではなく、「自由を取り戻す」ための治療です。
こんにちは。世田谷人工関節・脊椎クリニックの脊椎脊髄外科専門医の大友 望です。
前回のQ&Aでは、SCS(脊髄刺激療法)のリスクや合併症について、執刀医である脊椎専門医の立場から包み隠さずお話ししました。 今回のテーマはは少し視点を変えて、手術を終えた後の「リアルな日常生活」についてです。
「体に機械を入れたら、いろいろな制限がかかるんじゃないか…」 そんな不安から、治療をためらっている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、SCS手術後の生活制限は、皆さんが想像しているよりもずっと少ないです。よくある疑問に一つひとつお答えしていきます。
Q1. 体に機械を入れたら、MRI検査はもう受けられませんか?
A1. いいえ、MRI検査を受けることは可能です。
これが最も多く寄せられる質問であり、かつ最も大きな誤解です。
現在当院で採用している最新のSCSデバイスは、全身MRI対応となっています。
撮影の前に、患者さんご自身の専用リモコンを使って、SCSの電源をオフにしていただく必要はありますが、ボタンひとつ押していただくだけの簡単操作で、入院中や外来でもやり方はご説明しますので、安心してください。
Q2. 車の運転や、仕事への復帰はできますか?
A2. 運転も仕事も可能です。
運転自体は全く問題ありません。しかし、運転中はSCSの刺激をオフにしていただくことをおすすめしています。理由は、急な姿勢の変化で電気刺激が強く感じられることがあるからです。
また、仕事に関してですが、デスクワークであれば、退院後すぐに復帰される方がほとんどです。重労働や激しい動きを伴うお仕事の場合は、リード(電極)が安定するまでの6~8週間までは、少し負担を減らしていただくよう指導することがあります。
Q3. スポーツ(ゴルフ、マラソンなど)はできるようになりますか?
A3. はい、スポーツは可能です!むしろ、それがこの治療の目的です。
痛みのせいで諦めていたゴルフ、ウォーキング、旅行などの趣味を再開することは、SCSにおける最大のゴールです。 ただし、手術直後から数ヶ月間は、背中を「極端にねじる」「急激に曲げる」といった動作は、リードがズレる原因になるため控えていただきます。 時期を見て、少しずつ体を動かしていきましょう。
Q4. 空港の「手荷物検査(金属探知機)」で引っかかりませんか?
A4. 音が鳴る可能性があります。そのための「患者手帳」があります。
空港のセキュリティゲートや、お店の盗難防止ゲートを通る際、SCSのデバイスが反応してアラームが鳴ることがあります。 そのため、SCSを入れている患者さんには、世界共通の「患者手帳(デバイスの身分証明書)」が発行されます。検査の際にこの手帳を係員に見せていただければ、スムーズに通過できますので、旅行の際も心配はいりません。
まとめ:当たり前の日常を、もう一度
いかがでしたでしょうか。 「MRIが撮れない」「一生安静にしていなきゃいけない」といった誤解は解けましたか?
SCSは、痛みをコントロールすることで、あなたが本来やりたかったこと、楽しみたかった生活を取り戻すための強力なサポーターです。 「痛みのない生活に戻ったら、何をしようか」と、ぜひ前向きに想像してみてください。
次回は、SCSにしかない外科手術の常識を覆すシステム。 「いきなり手術は怖い…SCSなら可能な『お試し(トライアル)』とは?」について詳しく解説します。
参考文献
- Desai MJ, et al. Magnetic Resonance Imaging in Patients with Spinal Cord Stimulation Systems. Pain Med. 2015. (※ SCSデバイス埋め込み患者におけるMRI撮影の安全性とガイドラインに関する文献です)
- De Andrés J, et al. Everyday Activities and Spinal Cord Stimulation. Neuromodulation. 2013.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医