
「首の手術を勧められたけど、怖くて決断できない」 「手術に失敗したら、一生寝たきりになるんじゃないか…」
昨日のブログで「手のしびれは危険信号(頚髄症)」というお話をしましたが、いざ「手術」となると、腰の手術以上に「首」に対して恐怖心を持つ患者様は非常に多いです。 首には脳から続く太い神経(脊髄)が通っているため、その感覚は当然のことです。
こんにちは、世田谷人工関節・脊椎クリニック 脊椎脊髄外科医の大友 望です。
これだけはお伝えさせてください。 「昭和の時代の首の手術」と「令和の最新の首の手術」は、全くの別物です。 以前は肉眼で行っていた手術も、現在は高性能な顕微鏡などを用いて、極めて精密に行われるようになっています。
今日は、診察室でよくいただく「恐怖の質問」に、脊椎脊髄外科医の立場から正直にお答えします。
Q1. 80代ですが、高齢でも手術に耐えられますか?
A. はい、大丈夫です。「年齢」よりも「体力」を見て判断します。
「もう80歳を過ぎているから、手術なんて無理だ」と諦めていませんか? 医学的に重要なのは、カレンダー上の年齢(暦年齢)ではなく、心臓や肺などの機能を含めた「身体年齢」です。
当院では、手術前に全身の検査をしっかり行います。 もし心臓などに重い持病があり「手術のリスクが高い」と判断すれば、正直にそうお伝えし、無理に手術はしません。 逆に、90代であっても全身状態が良ければ、安全に手術を受けて元気に退院される方はたくさんいらっしゃいます。
特に当院の手術は、傷口を小さくし、出血を抑える工夫(低侵襲手術)をしているため、高齢の方でも体への負担が少なく、早期の回復が可能です。
Q2. 動けなくなってから、手術をお願いしてもいいですか?
A. いいえ。それでは手遅れになる可能性が非常に高いです。
厳しいことを言うようですが、これだけははっきりお伝えしなければなりません。 「歩けなくなってから(車椅子になってから)の手術」では、元通り歩けるようになる可能性はガクンと下がります。
首を通る神経(脊髄)は、脳と同じで、一度強く傷ついて死んでしまうと、二度と再生しない組織だからです。 手術は「圧迫を取り除く」ことはできますが、「死んだ神経を生き返らせる」ことはできません。
手術を受けるべきベストなタイミングは、「生活に支障が出始めた時(転びやすくなった、箸が使いにくい等)」です。 神経がまだ元気なうちに助けてあげることが、将来の寝たきりを防ぐ唯一の方法です。
Q3. 首を切るのは痛そうです。傷口は大きいですか?
A. 顕微鏡を使えば、傷は数センチで済みます。
「首の後ろを大きく切って、筋肉を剥がして…」というのは一昔前の話です。 当院では、高性能な手術用顕微鏡を使用します。
これにより、傷口を最小限(数センチ程度)に抑えることができます。 出血量も少なく、筋肉へのダメージも軽いため、術後の痛みは皆さんが想像するよりもずっと軽いです。 「えっ、こんなに痛くないの?」と驚かれる患者様がほとんどです。
Q4. 手術で逆に手足が動かなくなる(麻痺する)ことはありませんか?
A. 顕微鏡で神経を「拡大」して見るため、安全性は飛躍的に高まっています。
「メスが滑って神経を傷つけたらどうしよう」という不安があると思います。 しかし、現代の手術では、肉眼だけで手術をすることはほとんどありません。
当院では、手術用顕微鏡を使い、患部を何倍にも明るく、そして拡大して手術を行います。 細い神経や血管まではっきりと見える状態で、ミリ単位の操作を行うため、「誤って神経を傷つける」というリスクは極限まで低くなっています。
暗い部屋で手探りで行うのではなく、「照明をつけて、虫眼鏡でしっかり見ながら行う作業」だとイメージしていただければ、その安全性が伝わるかと思います。
まとめ:正しく怖がり、正しく治しましょう。
手術に「絶対(リスクゼロ)」はありません。 しかし、私たちはそのリスクを限りなくゼロに近づけるために、顕微鏡など様々な機器を駆使し、徹底した安全管理を行っています。
手術の最大のリスクは、「手術を受けること」ではありません。 「手術を怖がって先延ばしにし、症状が進行したり、転んで脊髄損傷を起こしたりして、一生車椅子生活になってしまうこと」 これが、私が脊椎脊髄外科医として最も恐れる事態です。
当院にいらしていただければ、模型やイラストを使って、丁寧にご説明します。 手遅れになる前に、あなたの首の状態を一緒に確認しましょう。
参考文献
- 日本整形外科学会,日本脊椎脊髄病学会(監):頚椎症性脊髄症診療ガイドライン 2020(改訂第3版),南江堂,2020.
- 日本脊髄外科学会:脊髄外科の基礎知識「頚椎の手術」
- Fehlings MG, et al. The role of surgical intervention in the management of cervical spondylotic myelopathy. Spine. 2013.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医