
「重い荷物を持ったわけでもないのに、急に腰が痛くなった」 「寝返りを打つだけで激痛が走り、夜も眠れない」 「最近、背中が丸くなってきた(猫背になってきた)気がする」
もし、ご高齢の方でこのような症状がある場合、それは単なる腰痛ではなく、背骨が押しつぶされる「脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)」、通称「いつのまにか骨折」である可能性が非常に高いです。
こんにちは、世田谷人工関節・脊椎クリニック 脊椎脊髄外科医の大友 望です。 冬場は、ちょっとした尻餅やくしゃみでも骨折してしまう患者様が急増します。
「骨折なんてしたら、何ヶ月も入院して寝たきりになってしまう…」と不安に思われるかもしれません。 しかし、ご安心ください。現代の医療では、骨折したその日や翌日に手術をし、数日で退院して元気に歩いて帰ることが可能になっています。
この記事では、高齢者の生活を脅かす圧迫骨折の治療、特に体に優しい「BKP(経皮的椎体形成術)」について詳しく解説します。
【結論】「安静」はもう古い? 早期治療が寝たきりを防ぐ
昔は、圧迫骨折といえば「コルセットをして、痛みが引くまで数ヶ月間、ベッドで絶対安静」というのが常識でした(保存療法)。
しかし、高齢者が長期間ベッドで寝たきりになると、何が起こるでしょうか? あっという間に足腰の筋肉が衰え、認知症が進み、肺炎や床ずれを起こし、そのまま本当に寝たきりになってしまうリスクが非常に高いのです。
そのため、現在の圧迫骨折治療のトレンドは、「痛みを早く取って、一日でも早くベッドから離して歩かせる(早期離床)」へと大きく変わっています。
当院では、保存療法で痛みが引かない場合、無理に長引かせず、早期に手術(BKPなど)を行うことを積極的に提案しています。
身体に優しい治療「BKP」とは?
BKP(Balloon Kyphoplasty)は、「経皮的椎体形成術」とも呼ばれます。 潰れてしまった背骨の中に、医療用のセメントを注入して固め、骨を補強して痛みを劇的に取る治療法です。
手術の流れ(所要時間:20~30分)
- 背中に3~5mmの傷をつけ、そこから特殊な針を刺し、潰れた骨の中に「風船(バルーン)」を入れます。
- バルーンをゆっくり膨らませ、潰れた骨を可能な限り持ち上げます。
- できた空間に、歯磨き粉のような硬さの「骨セメント」を充填します。
- セメントは10~15分でカチカチに固まり、骨が安定します。
BKPの3つの大きなメリット
- 傷口が小さい(低侵襲):背中から細い針を刺すだけなので、傷は3~5mmで済みます。出血もほとんどありません。
- 痛みが劇的に取れる: グラグラしていた骨がセメントで固定されるため、手術直後からすぐ痛みが消える方が多いです。
- 翌日には退院可能: 全身麻酔で行いますが、身体への負担が非常に少ないため、当院では手術翌日(1泊2日)での退院を基本としています。すぐに歩行訓練を開始できます。
※BKPは健康保険が適用される標準的な治療です。
当院の「総合力」:「BKP」も「固定術」も選べる強み
骨折の状態によっては、BKPだけでは不十分な場合があります。
- 骨折がひどく、神経を圧迫して足の麻痺が出ている場合。
- 骨がスカスカすぎて、セメントだけでは支えきれない場合。
このようなケースでは、BKPに加えて、背骨を金属のスクリュー(ボルト)で支える「固定術」が必要になります。
当院の強みは、BKPと固定術、両方の手術を専門的に行える点です。 「痛いからとりあえずセメント」ではなく、MRIやCTで骨の状態を詳細に分析し、「あなたにとって将来的に一番メリットがある方法はどちらか」を見極めて提案します。
骨粗鬆症がひどい方には、固定術と同時に骨を強くする注射の治療も並行して行い、再骨折を防ぐトータルケアを提供します。
まとめ:痛みは我慢せず、すぐに病院へ。
「いつのまにか骨折」は、放置すると背中がどんどん丸くなり(亀背)、内臓を圧迫して食欲不振になったり、逆流性食道炎の原因になったりもします。
「歳だから腰が痛いのは当たり前」と我慢せず、激しい痛みや、寝返りがつらい症状があれば、すぐに当院へご相談ください。
早ければ早いほど、BKPのような負担の少ない治療で済む可能性が高まります。 痛みのない生活を、最短ルートで取り戻しましょう!
参考文献
- 日本脊椎脊髄病学会(監):骨粗鬆症性椎体骨折診療ガイドライン 2023(改訂第2版),南江堂,2023.
- 日本脊髄外科学会:脊髄外科の基礎知識「骨粗鬆症性椎体骨折」
- Klazen CA, et al. Vertebroplasty versus conservative treatment in acute osteoporotic vertebral compression fractures (Vertos II): an open-label randomised trial. Lancet. 2010;376(9746):1085-92.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医