
SCS(脊髄刺激療法)Q&Aシリーズ、スタート!
こんにちは。世田谷人工関節・脊椎クリニックの脊椎脊髄外科専門医の大友 望です。
これまでの連載(全5回)では、SCS(脊髄刺激療法)という治療法の全体像や、私がこの治療を選ぶ理由についてお話ししてきました。 おかげさまで多くの反響をいただいておりますが、同時に患者さんからは「もっと具体的な悩みについて知りたい」という声も届いています。
そこで今日からは、【SCS・Q&A解説シリーズ(全10回)】をスタートしたいと思います!
検索サイトなどでよく調べられている「リアルな疑問」に対し、専門医の立場から一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
記念すべき第1回は、最も深刻で、かつSCSが最も力を発揮するこのテーマからです。
Q1. 腰の手術を受けたのに、痛みが消えません。これって手術の「失敗」ですか?
A1. 必ずしも「失敗」ではありません。「脊椎術後疼痛症候群(FBSS)」という病態の可能性があります。
せっかく勇気を出して手術を受けたのに、痛みやしびれが残っている。 「手術を失敗されたのではないか?」と不安になり、執刀医不信に陥ってしまう患者さんは少なくありません。他の病院で手術をしたのに、痛みがとれないという悩みを持って、私の外来を受診される患者さんは数多くいらっしゃいます。
しかし、MRIやCTなどの画像検査をしても「神経の圧迫は取れているから、手術は成功している」と言われてしまうことがあります。 これは、手術の手技自体は成功していても、長年の圧迫によって神経そのものが傷ついていることや、脳が痛みを記憶してしまっていることが原因です。
この状態を医学的に「脊椎術後疼痛症候群(FBSS:Failed Back Surgery Syndrome)」と呼びます。 名前には「Failed(失敗)」と付いていますが、これは手術ミスを意味するものではなく、「通常の手術では取りきれない種類の痛みが残った状態」を指します。
Q2. 痛いので、もう一度手術(再手術)をすれば治りますか?
A2. 慎重になるべきです。原因によっては、再手術で痛みが悪化することもあります。
ここが非常に重要なポイントです。 もし、痛みの原因が「神経の癒着」や「神経自体のダメージ」である場合、メスを入れて癒着を剥がそうとすると、神経のダメージが増えるばかりで、痛みが強くなるリスクがあります。また不必要に除圧や固定範囲が増え、術後の生活に支障をきたしてしまうこともあるでしょう。
私の外来には、他の病院で手術したのに痛みがとれない、もしくは悪化したという患者さんが多数いらっしゃいます。その際に、再手術を依頼されることも多いですが、「切るべき痛み」と「切らないほうがいい痛み」の見極めには細心の注意を払っています。
脊椎術後疼痛症候群(FBSS)のような「切っても治らない痛み」に対して、むやみに再手術(固定術の延長など)を繰り返すことは、お勧めしません。
Q3. では、この痛みはどうすればいいのですか?
A3. そこで「SCS(脊髄刺激療法)」の出番です。
薬も効かない、再手術もリスクが高い。 そんな「行き場のない痛み」に対して、世界中で標準的に行われている治療がSCS(脊髄刺激療法)です。
SCSは、痛みの原因を「切除」するのではなく、微弱な電気刺激によって痛みの信号を「カバー」する治療です。 特に、手術後に残ってしまった神経の痛みや、画像上は脊柱管狭窄やヘルニアなどの異常がない痛みに対しては、高い有効性が認められています。
まとめ:あきらめる前に、一度ご相談ください
「手術したのに痛い」と言って受診することは、決して恥ずかしいことでも、わがままでもありません。 それは「今の治療法が合っていない」というサインであり、SCS(脊髄刺激療法)という新しい選択肢への入り口かもしれません。
もし、あなたやご家族がこの悩みをお持ちなら、再手術を決断する前に、一度当院へご相談ください。
痛みの原因を正しく見極め、最適な治療法を一緒に探していきましょう!
次回は、皆さんが一番気にされている「お金」の話。 「SCSの費用は高い?保険や高額療養費制度」について、詳しく解説します。
参考文献
- Kumar K, et al. The effects of spinal cord stimulation in neuropathic pain. Pain. 1991;47(3):361-8.
- North RB, et al. Spinal cord stimulation versus repeated lumbosacral spine surgery for chronic pain: a randomized, controlled trial. Neurosurgery. 2005;56(1):98-106. (※再手術を行うよりもSCSを行った方が、痛みの改善率が高かったという調査報告です)
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医