
「先生、やっぱり手術は怖いです」
診察室で、圧迫骨折(いつのまにか骨折)と診断された患者様やご家族から、よくこう言われます。 「手術は怖いから、コルセットをして家で大人しくしています」 「入院するとボケちゃいそうだから、自宅で様子を見ます」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。 いくつになっても、身体にメスを入れるというのは怖いものです。
しかし、脊椎外科医として、そして一人の息子として、私はいつもこう自問自答しています。
「もし、目の前のこの患者さんが、自分の母親だったら、私はどちらを勧めるだろうか?」
こんにちは、世田谷人工関節・脊椎クリニック 脊椎脊髄外科の大友 望です。
今日は、医師としての「建前」ではなく、一人の人間としての「本音」をお話しします。
私が「寝て治す(保存療法)」を母に勧めない理由
もし、私の母(70歳代です)が圧迫骨折をして、「痛い、痛い」と寝返りも打てずに苦しんでいたら。 私は間違いなく、「保存療法(コルセットで安静)」は選びません。
なぜなら、高齢者にとって「2〜3ヶ月の寝たきり生活」は、骨折そのものよりも恐ろしいリスクがあることを知っているからです。
- 「認知症」が一気に進むリスク
痛みで動けず、天井を見つめるだけの生活。 会話も減り、刺激がなくなると、高齢者の認知機能は驚くべきスピードで低下します。 「骨は治ったけれど、お母さんが別人のようになってしまった」というご家族の後悔を、私は何度も見てきました。
- 足腰が弱り、本当に歩けなくなる
「1日寝たきりでいると、人間の筋肉は3-5%落ちる」と言われています。 数ヶ月も安静にしていたら、いざ骨がなおった頃には、もう自分の足で立つ筋肉が残っていないかもしれません。 これを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼びます。
「骨を治すために、人間としての生活(QOL)を犠牲にする」 これが、私が保存療法を母に勧めない最大の理由です。
だから私は、母にも「BKP」を受けさせます
では、どうするか。 私なら、迷わず昨日紹介した「BKP(経皮的椎体形成術)」という手術を受けさせます。
「えっ、高齢の親に手術なんて負担じゃない?」と思われるかもしれません。 ですが、逆なんです。
- 手術時間は20~30分程度
- 傷口は数ミリ(背中に針を刺すだけ)
- 出血はほぼなし
これくらいの負担であれば、体力のない高齢者でも十分に耐えられます。 そして何より、「手術をした翌日から歩ける」というメリットが絶大です。
痛みが消えれば、トイレにも自分で行ける。 ご飯も座って食べられる。長期間、痛み止めを飲む必要もなくなる。
とにかく「痛みがない」ふつうの生活ができる!
この「当たり前の生活」を一日も早く取り戻させてあげることこそが、本当の意味での親孝行だと、私は考えています。
私の判断基準のひとつは、常に「家族ならどうするか」
私は日々の診療で、治療方針や手術方法の選択(スクリューで固定するか、それとも内視鏡か・・・そもそも手術がよいのか)をする際、必ず心の中で「家族テスト」を行うように心がけています。
もちろん、レントゲンやMRI画像も非常に大事ですが、手術を考えるときは「もしこれが自分の妻の背骨だったら?」 「もしこれが実家の母の背骨だったら?」 と置き換えて考えます。
そうやって脳内でシミュレーションし、「これなら自分の家族にも自信を持ってできる」と確信した方法だけを、皆様にご提案しています。
だから、私が「手術をした方がいいですよ」とお伝えする時は、ビジネスや利益のためではありません。 「私なら、自分の親にこうします。だからあなたにも勧めたいんです」 という、家族同様の思いが込められていると思ってください。
これが私の本音です。
迷ったら、「先生の親ならどうしますか?」と聞いてください
もし、治療方針で迷われているなら、診察室で遠慮なくこう聞いてください。 「先生のご家族が同じ状態なら、どうしますか?」
私は、その質問に対して、嘘偽りなく正直にお答えすることをお約束します。
「手術は怖い」 その壁を乗り越えた先には、「あの時手術してよかったね」と家族で笑い合える未来が待っているはずです。ぜひ週末、ご家族でゆっくり相談してみてください。
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医