はじめに
整形外科専門医 塗山正宏より
外来で診察をしていると、変形性股関節症の患者さんから
「まだ歩けるから大丈夫でしょうか?」
「もう少し我慢した方がいいですか?」
という質問を非常によく受けます。
変形性股関節症は、我慢強い方ほど受診が遅れやすい病気です。
しかし実際には、早い段階で正しく状況を把握することで、選択できる治療の幅は大きく広がります。
このページでは、日々股関節診療と人工股関節手術に携わっている整形外科専門医の立場から、患者さんが「今の自分の状態を理解し、次にどう行動すればよいか」が分かるように解説します。
「最近、歩き始めに股関節が痛む」
「靴下をはく動作がつらくなってきた」
こうした症状をきっかけに、変形性股関節症という言葉を耳にする方は少なくありません。
変形性股関節症は、中高年の女性に特に多くみられる股関節の病気で、進行すると日常生活に大きな影響を及ぼします。
一方で、正しく理解し、適切な治療を行えば、痛みをコントロールし、再び自分らしい生活を取り戻すことが可能な病気でもあります。
本記事では、整形外科専門医の立場から、
・変形性股関節症とはどのような病気なのか、
・原因・症状・治療法、そして手術を考えるタイミング
まで、わかりやすく解説します。
変形性股関節症とはどんな病気?
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、関節が変形して痛みや動きの制限が生じる病気です。
股関節は、骨盤の「寛骨臼(かんこつきゅう)」と太ももの骨の「大腿骨頭」からなる球状の関節で、体重を支えながら滑らかに動く構造をしています。
この関節表面を覆う軟骨が、加齢や構造的な問題によって徐々に傷んでいくことで、炎症や痛みが生じます。
なぜ起こるのか?(日本人に多い理由)
日本人の変形性股関節症の多くは、寛骨臼形成不全が背景にあります。
寛骨臼形成不全とは、股関節の受け皿が浅く、大腿骨頭を十分に覆えていない状態です。
この状態では、若い頃は問題がなくても、年齢とともに関節への負担が集中し、軟骨がすり減りやすくなります。
その他の原因として、以下が挙げられます。
- 加齢
- 過去の外傷や骨折
- 体重増加
- 股関節への過度な負担
主な症状(初期・進行期・末期)
初期
- 立ち上がりや歩き始めの違和感
- 長時間歩いた後の軽い痛み
進行期
- 歩行時の痛みが増強
- 靴下がはきにくい、爪切りがつらい
- 股関節の動きが悪くなる
末期
- 安静時や夜間の痛み
- 歩行困難、杖が必要になる
- 日常生活動作の著しい制限
放置するとどうなるのか
変形性股関節症は自然に治る病気ではありません。
放置すると軟骨の摩耗は進行し、痛みや可動域制限が強くなります。
結果として、
- 活動量の低下
- 筋力低下
- 生活の質(QOL)の低下
につながり、「痛みを我慢する生活」が当たり前になってしまうこともあります。
検査・診断方法
診断の基本はレントゲン検査です。
関節裂隙の狭小化、骨棘(骨のとげ)、骨硬化像などを確認します。
必要に応じて、
- MRI検査(初期変化や軟部組織評価)
- CT検査(骨形態の詳細評価)
を行うこともあります。
治療法
保存療法
初期〜進行期では、まず保存療法を行います。
- 体重管理
- 運動療法・リハビリテーション
- 鎮痛薬の内服や外用
- 関節内注射
保存療法の目的は、痛みを和らげ、進行を緩やかにすることです。
手術療法(人工股関節置換術)
保存療法で十分な改善が得られない場合、人工股関節置換術が選択肢となります。
人工股関節置換術は、傷んだ関節を人工関節に置き換える手術で、
- 痛みの大幅な改善
- 歩行能力の回復
- 生活の質の向上
が期待できます。
近年は手術手技や人工関節の進歩により、耐久性・安全性ともに大きく向上しています。
手術はいつ受けるべきか
よくある質問が「まだ我慢できますが、手術は早すぎますか?」というものです。
手術のタイミングに正解は一つではありませんが、
- 痛みで日常生活に支障が出ている
- 歩く距離が明らかに短くなった
- 気持ちまで消極的になってきた
こうした変化があれば、一度専門医に相談することをおすすめします。
よくある誤解・患者さんの不安
- 「手術をすると正座できなくなる?」
- 「人工関節は一生もたない?」
これらは外来で非常によく聞かれる質問です。
実際には、生活様式や手術方法によってできる動作・注意点は異なり、人工関節の耐久性も大きく向上しています。
正確な情報を知ることが、不安解消の第一歩です。
世田谷人工関節・脊椎クリニックでの診療の考え方
当クリニックでは、
- 必要以上に手術を勧めない
- 患者さん一人ひとりの生活背景を重視する
- 十分な説明と納得を大切にする
ことを診療の基本方針としています。
変形性股関節症の治療は、「痛みを我慢する」か「すぐ手術」かの二択ではありません。
最適なタイミングと方法を一緒に考えていくことが重要です。
変形性股関節症セルフチェックリスト
以下に当てはまる項目が多いほど、変形性股関節症の可能性があります。
- 歩き始めに股関節や太ももの付け根が痛む
- 長く歩くと股関節がだるくなる、痛くなる
- 靴下をはく、爪を切る動作がつらい
- 以前より歩ける距離が短くなった
- 階段の上り下りで股関節が痛む
- レントゲンで「軟骨がすり減っている」と言われた
2〜3項目以上当てはまる場合は、一度専門医への相談をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
変形性股関節症とはどんな病気ですか?
股関節の軟骨がすり減り、関節が変形することで痛みや動きの制限が生じる病気です。日本人では寛骨臼形成不全を背景に発症するケースが多くみられます。
変形性股関節症は自然に治りますか?
自然に元の状態へ戻ることはありません。ただし、保存療法や手術療法によって痛みを軽減し、生活の質を大きく改善することは可能です。
変形性股関節症は必ず手術が必要ですか?
必ずしも手術が必要なわけではありません。症状が軽い場合は保存療法で経過をみることも多く、日常生活への支障が大きくなった場合に手術を検討します。
人工股関節置換術は安全な手術ですか?
人工股関節置換術は、世界的にも確立された安全性の高い手術です。近年は人工関節や手術手技の進歩により、長期成績も大きく向上しています。
変形性股関節症で受診するタイミングはいつですか?
歩行時の痛みが続く、靴下をはく動作がつらい、歩ける距離が短くなったと感じた時点で、一度整形外科専門医に相談することをおすすめします。
信頼できる医学的根拠(ガイドライン・文献)
本記事の内容は、以下の信頼性の高い医学的資料・ガイドラインをもとに構成しています。
- 日本整形外科学会(JOA)/日本股関節学会:変形性股関節症 診療ガイドライン
→ 日本における変形性股関節症の診断・治療の標準的な考え方がまとめられています。 - Learmonth ID, Young C, Rorabeck C. The operation of the century: total hip replacement. Lancet. 2007.
→ 人工股関節置換術が20世紀を代表する成功した手術であることを示した総説論文です。 - UpToDate®: Osteoarthritis of the hip
→ 国際的に広く参照されている臨床レビューで、股関節症の病態・治療選択を包括的に解説しています。
これらの医学的根拠に基づき、当クリニックでは
「安全性」「長期成績」「患者さんの生活の質」を重視した診療を行っています。
おわりに
変形性股関節症は、正しく向き合えば人生を取り戻すことができる病気です。
「これくらい仕方ない」と我慢する前に、ぜひ一度ご相談ください。
世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏は、あなたが再び前向きに歩き出すためのお手伝いをいたします。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医