
手術は「一発勝負」だと思っていませんか?
「手術を勧められたけれど、もし良くならなかったらどうしよう…」 「体にメスを入れて、やっぱりダメでした、では取り返しがつかない…」
多くの患者さんが、手術に対してこのような「恐怖」を感じるのは当然です。 一般的な脊椎手術(固定術や除圧術)は、骨を削り、金具を入れる、いわば「片道切符」の治療です。一度行ってしまえば、元の体に戻すことはできません。
しかし、SCS(脊髄刺激療法)は違います。 整形外科手術の中で唯一と言っていいほど珍しい、「往復切符」を持った治療なのです。
こんにちは。世田谷人工関節・脊椎クリニックの脊椎脊髄外科専門医の大友 望です。
今回は、私がこのSCSを強く推奨する最大の理由、「トライアル(試験刺激)」について、じっくりお話しします。
「気に入らなければ、戻せる」手術
SCSの最大の特徴は、「本格的に機械を埋め込む前に、実際に効果があるかを数日間試せる」という点です。
車を買う前の「試乗」。 洋服を買う前の「試着」。
私たちは日常で、重要な決断をする前に「お試し」をすることが多いのではないでしょうか?
しかし、医療、特に手術の分野では、それができませんでした。
SCSは、そんな常識を覆した!と言っても過言ではありません。
実際に電気を流してみて、痛みが楽になるか、生活が変わるかを確認してから、手術を受けるかどうかを患者さん自身が決められる
これがSCSのトライアルです。 もし効果を感じなければ、 リード(電極)を抜いてしまえば、体には何も残りません。「試したけれど、自分には効果があまりなかったな」「効果はあったんだけど、思っていたより合わなかったな」という結果だけを持って、元の生活に戻れる、つまりキャンセルできるのです。
トライアルは、どのように行うのか?
「お試し手術」といっても、大掛かりなことはしません。当院では以下のような流れで行います。
- 小さな針穴から挿入:麻酔下で背中に注射針のようなものを通して、細いリード(電極)を背骨に沿わせてするするっと入れます。骨を削ったり、筋肉を切ったりは一切しません!
- 手術時間は約20分:非常にスムーズかつ短時間(約20分程度)で正確な位置に留置します。体への負担は最小限です。
- 数日間の生活体験: リードの一部を体の外に出し、外付けの小さな機械につなぎます。その状態で2-3日ふつうに過ごしていただきます。
トライアル中に確認してほしい「3つの変化」
私が患者さんに「痛みの点数(10段階評価)」以上に注目してほしいとお伝えしているのは、以下の3点です。
- 睡眠の質が変わったか?
「痛くて夜中に起きてしまうことがなくなった」「朝までぐっすり眠れた」。これはトライアルの効果があったサインです。 - 「できない」が「できる」もしくは「しやすくなった」になったか?
「いつもより長く歩けた」「痛みを気にせず顔を洗えた」。こうした日常動作の変化こそが、SCSの真の効果です。 - 薬の量が減りそうか?
「いつも飲まないと動けない痛み止めを、今日は飲まなくて平気だった」。これも重要な指標です。
もし、効果がなかったら?
もちろん、SCSは魔法ではありませんので、残念ながら効果を感じられない方もいらっしゃいます。 トライアルで効果がないと分かった場合、リードを抜去してSCSは終了となりますが、そのリード抜去はベッドサイドで一瞬で終わり、痛みもほとんどありません。
効果がないことが分かると、たしかにガッカリされるかもしれません。
しかし、これはSCSトライアルが無駄だったわけでは決してありません。
トライアルをしたことで、「効果のない本植込み手術を回避」できたのです。
買おうか迷っていた車や洋服が自分にあわないことがわかり、完全に購入してしまう前に返却できた ということと同じです。
何も失うことなく、次の治療法を探すステップへ進めるとプラスに捉えていただきたいと思っています!
実際に、トライアルをやってみたけど効果がいまひとつで、通常の腰椎手術に移行した患者様もいらっしゃいます。
まとめ:リスクを最小限にするために
私は、効果が不確実なまま、患者さんの体にメスを入れることはしたくありません。
だからこそ、「まずは試しましょう」と言えるSCSは、医師にとっても、患者さんにとっても、非常にフェアで誠実な治療法だと確信しています。
「失敗したくない」 そう思う方こそ、まずは「失敗のリスクがない」このトライアルについて、一度ぜひご相談に来てください。
さて次回はSCS連載の最終回。SCSの治療の流れをおさらいします。
参考文献
- Deer TR, et al. The Neuromodulation Appropriateness Consensus Committee on Best Practices for Spinal Cord Stimulation. Neuromodulation. 2014;17(5):431-64.
- Oakley JC, et al. Spinal cord stimulation mechanisms: Role of the trial. Neuromodulation. 2006.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医