
前回は、薬も手術も効かない痛みに対する「第3の選択肢」としてSCS(脊髄刺激療法)をご紹介しました。 今回は、「そもそもSCSって何をするの?」「電気を流すなんて怖くないの?」という疑問にお答えします。
こんにちは。世田谷人工関節・脊椎クリニックの脊椎脊髄外科専門医の大友 望です。
「背骨に電極を入れる」と聞くと、少し怖いイメージを持たれるかもしれません。しかし、実はSCSは非常に理にかなった、体に優しい治療法なのです。
骨も神経も傷つけない「スマート・ペインコントロール」
SCS(Spinal Cord Stimulation 脊髄刺激療法)とは、背骨に這わせて細い電極(リード)を入れ、微弱な電気を流すことで、痛みの信号が脳に届くのをブロックする治療法です。
分かりやすく言えば、「痛みの回線に、別の信号を割り込ませて、痛みを感じにくくする」仕組みです。
なぜ電気が痛みを止めるのか?(ゲートコントロール理論)
皆さんは、足をぶつけた時に、思わずその場所を手でさすったり、撫でたりした経験はありませんか? 不思議なことに、さすると痛みが少し楽になりますよね。
実はこれ、医学的には「ゲートコントロール理論」という仕組みで説明されます。 「さする(触覚)」という信号が脊髄に入ると、痛みを伝える「門(ゲート)」が閉じられ、脳への痛みの伝達が遮断されるのです。
SCSはこの仕組みを応用しています。 「さする」代わりの心地よい電気刺激(パルス)を神経に送ることで、痛みのゲートを閉じ、脳が痛みを感じるのを防ぐのです。
電気と聞くと、ビリビリした感じや、低周波治療器のトントンとした感じを想像されるかもしれませんが、そういった感覚はなく、痛みだけを抑える技術があります。
従来の手術との決定的な違い
一般的な脊椎手術は、骨を削ったり、神経の圧迫を取り除いたりして「体の構造」を変える治療です。 一方、SCSは上記のような理論を用いて「痛みの信号」だけをコントロールする治療です。
- 骨を削りません。
- 神経をいじらないので、神経を傷つける心配がありません。
- 体にメスを入れる範囲は最小限です。
そのため、お体への負担が極めて少なく、高齢の方や、「これ以上、大きな手術はしたくない」という方にも適応できるのが特徴です。
まとめ
SCSは、体を大きく傷つけることなく、痛みの伝達をコントロールする「スマート」な治療法です。
では、なぜ脊椎手術の専門家である私が、あえて「切らない」この治療を選ぶのでしょうか? 次回は、その理由について、私の医師としての信念とともにお伝えします。
参考文献
- Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science. 1965;150(3699):971-9.
- Linderoth B, Foreman RD. Mechanisms of spinal cord stimulation in painful syndromes: role of animal models. Pain Med. 2006;7 Suppl 1:S14-26.
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医