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- 腰部脊柱管狭窄症とは:加齢などで背骨の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、足のしびれや痛みが生じる病気
- 代表的な症状:しばらく歩くと足が痛み、前かがみで休むと再び歩けるようになる「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が特徴
- 早めの相談が肝心:放置すると歩行困難や排尿障害など、手術をしても回復しにくい後遺症が残るリスクがあります
- 多彩な治療の選択肢:薬物療法やリハビリなどの保存療法から、体の負担を抑えた低侵襲な内視鏡手術まで、進行度に応じた治療が可能
- 生活の質の改善へ:適切な時期に専門医を受診し、正しく治療・リハビリを行うことが、健康寿命を延ばし自分らしい生活を取り戻す近道となります 。
腰部脊柱管狭窄症とは?
腰部脊柱管狭窄症は、脊髄の通り道となっている脊柱管が腰の部分で狭くなって神経が圧迫され、下肢のしびれや痛みなどの症状がでる病気です。 (*1)
脊椎(背骨)は、椎骨という24個のブロック状の骨が重なってできており、頚部、胸部、腰部という3つのパートが、それぞれ、7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎(加えて、お尻の骨である仙骨、尾骨)から構成されています。

脊柱管狭窄症は、狭窄が起こる部位によって、違う病名がつけられます。
腰以外では、頚部が頚部脊柱管狭窄症、胸部が胸部脊柱管狭窄症となります。
ほかに、頚椎〜胸椎〜腰椎と広範囲にわたり脊柱管が狭くなる広範脊柱管狭窄症という疾患もあります。この病気は、障害者手帳の対象ともなる厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。(*2)
4つの脊柱管狭窄症のうち、最も患者数の多いのが腰部脊柱管狭窄症で、推定患者数は約580万人とされています。 (*3)
脊柱管の構造
病気の発症部位となる脊柱管の構造を確認しておきましょう。
背骨を構成している椎骨は、前方(腹部側)に、円柱状の椎体があります。
椎体と椎体の間にあるのが椎間板で、ショックを和らげるクッション役を果たしています。椎体は、前後にある前縦靭帯と後縦靭帯によって支えられています。
一方、椎骨の後方(背中側)には、椎弓があり、黄色靭帯と椎間関節によって上下に連結されています。
この椎体と椎弓によって囲われている空間が、脊柱管です。

脊柱管の中には、中枢神経の一部である脊髄が通っており、脳から伸びてきた脊髄は腰椎の1番〜2番の高さまできています。
それより下方は末梢神経となります。馬のしっぽに似ているところから馬尾神経と呼ばれます。
年を取ると、椎骨を構成している組織に変性が起こってきます。骨自体が尖ってきたり、椎間板が飛び出したりといった加齢性の変化が生じるのです。
これらの影響で脊柱管が狭くなり、脊髄やそこから枝分かれした神経が圧迫された結果、腰部脊柱管狭窄症のさまざまな症状が生じることになります。(*4)
腰部脊柱管狭窄症は、その主な原因が加齢による脊椎を構成する各組織の変性にあるため、中高年以降に多い疾患です。
高齢者の10人に1人が罹患しており、社会の高齢化が進むにつれて、さらに患者数がふえていくと見られています。(*3)
続いて、その原因について、さらに詳しく見ていきましょう。
(*1)一般社団法人日本脊髄外科学会
(*2)難病情報センター
(*3)藤田順之 腰部脊柱管狭窄症と健康寿命 「はじめに」の項の終わり近く
(*4)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
腰部脊柱管狭窄症の原因
腰部脊柱管狭窄症を引き起こす原因は、加齢によるものと、それ以外のものに分けることができます。
まず、加齢によるものについてまとめておきましょう。
加齢
加齢とともに、脊椎の各組織にさまざまな変化が起こってきます。
椎体と椎体の間でクッション役を果たしている椎間板は、年をとるとともに変性し、その水分と弾力性が失われていきます。弾力性を失ってしまった椎間板は背骨を十分に支えきれなくなるため、その働きを補うように周囲の組織にも変化が起こります。
その一つが、椎体自体の変性です。たとえば、椎体の上下部分が出っ張ってくることがあります。これが「骨棘(こっきょく)」と呼ばれるものです。
また、脊柱管の後ろ側で、椎骨を上下に連結している関節である椎間関節にも変化が生じることがあります。椎間関節のふちが出っ張ることで、椎体と同様に骨棘を形成します。こうして生じる骨棘などが脊柱管を圧迫する一因となります。(*5)
脊柱管の背後にあり、椎骨を上下に連結している黄色靭帯にも変化が起こります。
弾力性を失った椎間板のかわりに、脊椎を支えるため、黄色靭帯が硬く厚くなるのです。この肥厚した靭帯も脊柱管を圧迫する要因となります。
椎間板の話に戻りましょう。
加齢とともに水分と弾力性を失った椎間板は、つぶれて薄くなった結果、後ろに張り出すことがあり、その突出部分が脊柱管を圧迫すると、脊髄の狭窄が引き起こされます。
椎間板が大きく飛び出してしまった場合、腰部椎間板ヘルニアと診断されることになります。
加齢により椎間板が変性し、不安定になったり、椎間関節がゆるんでくると、椎骨の配列が前後にズレることがあります。
ズレた椎骨が脊柱管を押し、神経が圧迫されると、脊柱管狭窄症と同じ症状が出ます。これが、「腰椎変性すべり症」です。

ヘルニアやすべり症が原因となって、脊柱管狭窄症が引き起こされるケースは少なくありません。(*6)
また、腰椎が横に曲がってしまう側弯が起こったケースでも、脊柱管が狭窄し、症状が出ることがあります。
そのほかの原因
生まれつき脊柱管が狭いという人もいます。
こうした人は、比較的若い年齢から症状が出ます。
姿勢の悪い人や、腰に負荷のかかりやすい仕事やスポーツをしている人も、早い段階から脊柱管が狭くなりやすい傾向があります。
ほかに、過去に脊椎の外科手術を受けた人、交通事故などで背骨をケガした人などでは、脊柱管が狭くなるケースがあります。
(*5)公益社団法人 日本整形外科学会
(*6)公益社団法人 日本整形外科学会
腰部脊柱管狭窄症の分類
腰部脊柱管狭窄症には、神経根型、馬尾型、混合型の3つのタイプがあります。それぞれについて説明しましょう。
馬尾型
脊柱管の腰の部分には、脊髄から続く神経の束が通っています。これが馬尾神経です。

脊柱管の狭窄によって、この馬尾が圧迫されるのが、馬尾型です。
馬尾が圧迫されると、左右の足に痛みやしびれが広範囲に出ます。間欠性跛行と呼ばれる歩行障害も生じます。神経根型と比べると、馬尾型は重篤な症状で、悪化すると、膀胱直腸障害などの深刻な症状が起こってきます。馬尾型に対しては、内服やリハビリテーションなどの保存的加療は無効なことが多く、手術をおすすめいたします。
神経根型
神経根とは、脊髄から枝分かれした神経の根元をいいます。脊柱管が狭窄されたとき、この神経根が圧迫されて症状が生じるのが神経根型です。
神経根は左右に分岐しているため、通常、圧迫を受けた神経根のある側、つまり、左右いずれかの足・腰だけに症状が出ることになります。
通常、痛みやしびれといった感覚障害であれば、内服やリハビリテーションを中心とした保存的加療によるある程度の症状の緩和は期待できますが、筋力低下や脱力などの運動障害が見られる場合は、保存的加療では改善することはなく、なるべく早期の手術をおすすめいたします。

混合型
馬尾型と神経根型の2つのタイプが合わさった病態です。
3タイプのうち、最も重症で、治りにくいとされています。
なお、腰椎は全部で、通常5個(ときに腰椎6個であったり、4個であったりすることも)あります。
そのうち、脊柱管狭窄症の好発レベルは第4腰椎と第5腰椎の間にあることが最も多く、次に第3腰椎と第4腰椎のの間に多いと言われています。
なお、第4腰椎と第5腰椎の間に狭窄が生じたケースでは、おしりから太もも、ふくらはぎの後ろ側から外側にかけて、いわるゆ「坐骨神経痛」とよばれる痛みやしびれが出てきます。
腰部脊柱管狭窄症の症状
腰部脊柱管狭窄症では、主に次のような症状が見られます。
足の痛み、しびれ
お尻から太ももの裏、ふくらはぎから足にかけて、痛みやしびれ、重だるさなどを訴えることが非常に多いです。
病状が進行すると、しびれや痛みの範囲がより広がっていきます。
間欠性跛行
歩いていると、下肢に痛みやしびれが出て、歩いているのがつらくなります。
しゃがんで休憩したり、前かがみになったりすることで、また歩けるようになりますが、しばらく歩くと、また足がしびれ…、このパターンをくりかえします。
これが間欠性跛行で、腰部脊柱管狭窄症の最も典型的な症状です。
シルバーカーやショッピングカートを押していると、楽に歩けます。

腰痛
腰痛や臀部痛が起こります。ただし、腰の脊柱管に原因があって起こる疾患にもかかわらず、腰痛を訴えない人もいます。
皮膚の感覚異常
皮膚に薄皮が貼ってあるように感じたり、触るとチリチリした感じがするなど、皮膚の感覚異常が起こることがあります。
足の脱力、まひ
足に力が入らないと感じることがあります。高齢者の場合は転倒のリスクが高まります。症状が悪化すると、脱力感がさらに増し、足がまひ状態になってしまうケースがあります。
会陰部の異常
会陰部に灼熱感や冷感、しびれ、ひきつれなどを感じることがあります。
肛門周囲にも、しびれやほてりを感じます。
これらは馬尾神経が圧迫されたときに生じる症状です。
膀胱直腸障害
頻尿や残尿感などの排尿障害が起こります。
日中のトイレの回数が目立ってふえたり、今まで夜のトイレの回数が1回だったものが、2回も3回もトイレに行くようになると、腰部脊柱管狭窄症による馬尾障害が起きている可能性があります。
症状が進行すると、排尿や排便がスムーズにできなくなります。
膀胱直腸障害に悩まされるようになったら、手術を検討する必要があります。
腰部脊柱狭窄症と似た症状がある疾患
腰部脊柱管狭窄症と似たような症状を呈する疾患があります。
その主な疾患との判別は次のようになります。
腰椎椎間板ヘルニアとの違い
腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の椎間板が変性して飛び出し、神経を圧迫し、足や腰に腰部脊柱管狭窄症と同じような症状を引き起こします。(*7)
腰部脊柱管狭窄症は、腰を反らす姿勢をとると、痛みやしびれが出やすくなります。逆に、しゃがんだり、前かがみになると、楽になります。
一方、腰椎椎間板ヘルニアは、前かがみになると、症状が悪化しやすくなり、逆に、背すじを伸ばすと楽になります。
末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)との違い
末梢動脈疾患とは、足の動脈が狭くなったり詰まったりして血流が悪くなり、さまざまな症状が生じる病気です。腰部脊柱管狭窄症と同じように間欠性跛行が起こります。(*8)
間欠性跛行になった場合、両疾患とも、休憩すると歩けるようになります。
ただ、腰部脊柱管狭窄症では、前かがみなるなど、姿勢を適切に変えて休む必要がありますが、末梢動脈疾患では、休む姿勢は関係なく、単純に休むだけで、また歩けるようになります。
(*7)公益社団法人 日本整形外科学会 腰椎椎間板ヘルニア
(*8)日本血管外科学会
腰部脊柱管狭窄症の検査・診断法
次のような項目が確認されると、腰部脊柱管狭窄症を疑います。
・臀部から足にかけて、痛みやしびれがある
・上記の痛みやしびれが、立ったり歩いていると悪化し、前かがみになったり、座って休むと楽になる
・臀部から足にかけての症状がなく、腰痛のみの場合、脊柱管狭窄症でない可能性がある
・臨床症状と、レントゲン検査、MRI検査などの結果が一致している(*9)
診断を確定するための主な検査は次のようなものです。(*10)
問診
腰痛の有無や、痛みやしびれの出ている部位を確認。皮膚の感覚障害や筋力低下などがないかどうかも調べます。
レントゲン検査
主に骨の状態を確認するために行います。
骨の形が不安定になっていないかどうか、側弯がないかどうか等を確認します。
MRI検査
レントゲンは固い骨の撮影に適していますが、MRIでは、レントゲンでは映らない椎間板の状態や神経の異常などを調べます。
CT検査、脊髄造影検査
脊髄腔造影検査は、背中から造影剤を脊髄腔内に注入することで、神経の状態を見ることができます。狭窄部位のどこがどう狭くなっているかを実際に目で見て確認できます。
ペースメーカーなどが体内に入っていて、MRIを撮影できない場合や、より詳細な患部のデータを得るためにCT撮影を行います。
(*9)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン p9 病歴冒頭
(*10)公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
腰部脊柱管狭窄症の保存療法
腰部脊柱管狭窄症の治療法のうち、まず最初に保存療法について説明します。
保存療法には、主に、薬物療法、ブロック注射、理学療法(運動療法など)があります。
腰部脊柱管狭窄症の薬物療法
腰部脊柱管狭窄症の薬物療法では、主に次のような薬が処方されます。
血管拡張剤
第一選択となるのが、プロスタグランジンE1などの血管拡張剤です。
脊柱管の狭窄によって圧迫された神経の周囲の細い血管では血流障害が起こっています。血管拡張剤はその血流をよくして、しびれや痛みを軽減させる効果が期待できます。
通常2〜3ヶ月にわたって継続して服用すると、歩ける距離が長くなるなど、症状の緩和が期待できるとされています。(*4)
消炎鎮痛剤
ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は、いわゆる鎮痛剤で、炎症、発熱、痛みなどを起こす体内物質「プロスタグランジン」の生成を抑える働きがあります。
神経根型のタイプの痛みに有効とされており、当座の痛みの解消に短い期間使用されます。(*4)
神経障害性疼痛治療薬
神経障害性疼痛治療薬は、神経の痛みを和らげる薬剤で、痛みやしびれが強いときに処方されます。
神経の痛みには、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が効きにくいため、こちらが選択されるケースが多くなります。
弱オピオイド鎮痛薬
弱オピオイド鎮痛薬は、鎮痛効果に上限が設けられた鎮痛薬。
鎮痛効果としては、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)よりやや強め、軽度から中等度の痛みに対し処方されます。
日常生活動作が痛みによって障害されている場合などに使われます。
(*11)(*4)
ブロック注射
ブロック注射は、痛みを引き起こしている神経を局所麻酔薬でマヒさせ、痛みを一時的に和らげる治療法で、2つのタイプがあります。
硬膜外ブロック注射
脊柱管の中の硬膜外腔という部位に局所麻酔薬を注入します。すると、薬が硬膜外腔に広がり、多くの神経をマヒさせて、痛みを和らげます。
硬膜外ブロック注射
脊髄から枝分かれした神経根にピンポイントで局所麻酔薬を注入します。
局所的な治療で、ほかの薬物療法と比べても全身への影響は少なめ、かつ、即効性が高いというメリットがあります。
ブロック注射によって長期間いい状態を保てるケースもありますが、その一方で、十分な効果が得られないケースもあります。
こうした場合、手術などを検討することになります。

理学療法
腰を安定させるために足腰の筋力低下を防ぐための運動がすすめられることがあります。
腰や足を温めることで患部の血行を促すのも有効な方法です。
コルセット
コルセットを巻くことで、姿勢が安定します。
姿勢が安定することで、狭窄が起きにくくなり、痛みはやわらぎます。
ただし、コルセットを装着している時間が長すぎると、体幹の筋力が弱くなったり、からだの柔軟性が落ちたりすることがあります。
このため、コルセットを使用する場合は、24時間装着し続けるのではなく、症状がつよい時や、長時間の座位(座り仕事をする、車や新幹線で長距離移動するなど)を要する時など、使う場面を限定して装着することがすすめられます。
運動療法
この病気になると、歩くと痛みやしびれが出るため、外出を控えたり、歩かなくなる人もいます。
しかし、そうやって動かなくなると、どんどん筋力が低下し、症状の悪化を招くことになります。
ウォーキングや自転車こぎのような有酸素運動を継続していくことが重要です。
なお、水泳もすすめられますが、バタフライのように背中をそらす運動は避けたほうがよいでしょう。(*S)
(*4)国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 「保存的治療」の項
(*11)一般社団法人 日本ペインクリニック学会 「WHO方式の三段階除痛(鎮痛)ラダー」の項
腰部脊柱管狭窄症の手術療法
保存療法を行っても症状が改善しない場合、手術を検討することになります。
馬尾型のタイプで排尿障害などの膀胱直腸症状が出ているケースで、数か月薬物療法を行っても効果が現れないときは、手術がすすめられます。
排尿障害が重症化してしまうと、手術をしてもよくならないことがあるためです。
また、神経根型のタイプで、痛みで仕事ができなかったり、うつ状態に陥ってしまっているケースのように、仕事や生活に大きな支障が出ている場合も、やはり、手術が検討の対象になります。
手術方法は、大きく分けると、除圧術と固定術の2種類になりますが、通常は固定術を行う場合は同時に除圧術も実施していることが多く、固定術は「除圧固定術」と呼ばれることが多くなっています。
それぞれについて解説します。
近年、除圧術においても固定術においても、さまざまな方式の手術が開発され行われていますが、ここでは代表的なものを取り上げます。 (*9‐2)
除圧術
除圧術の一つが椎弓切除術です。
椎弓切除術は、神経を圧迫している椎弓の一部や黄色靭帯などを取り除き、脊柱管を広げ、神経の通り道を広げるものです。

当院では、狭窄が1~2か所の場合は、専用の内視鏡を使って、内視鏡下椎弓形成術(MEL: Micro Endoscopic Laminectomy)を行っています。内視鏡手術では傷が16~18㎜程度ですみますので、身体への負担が少ないことがメリットです。
ただし、狭窄箇所が複数存在する場合に内視鏡手術を行うと、かえって手術時間が長くなったり、除圧が不十分になったりする場合があります。
そのため、複数の狭窄がある場合には、従来の方法での除圧術をおすすめする場合があります。従来の方法といっても決して古めかしい治療というわけではなく、無理に内視鏡手術を行うよりも、手術時間は短くなり、十分な除圧ができるようになるという利点があります。
このように、当院では狭窄の程度や状況によって、内視鏡手術や従来の除圧術を使い分け、患者様ひとりひとりに適切な治療方法を提案しています。
除圧固定術
除圧術は背骨が安定している場合に行われますが、すべり症や上下の椎体のぐらつきやガタツキがあるような不安定な場合は、椎弓を切除するだけでは術後に骨の不安定性が残ることになります。そこで、圧迫部分を切除するとともに、腰椎を固定する、脊椎除圧固定術を行います。
また、狭窄がかなり高度な場合や、いちど除圧術をうけた箇所が再度狭窄した場合などにも、除圧術に固定を併用して除圧固定術を行います。

以前は、固定用のスクリューを挿入するために、切開部分を大きくしなければなりませんでしたが、近年では、より低侵襲な術式が開発されています。当院では患者様ひとりひとりにオーダーメイドのスクリューガイドを作成する「ナビゲーション手術」を行っています。そのため、小さい傷でも、正確にスクリューを挿入できる、安全な除圧固定術を行っています。
さらに、この術式では、骨や靭帯に対する負担を減らすことで、手術時間を短縮させ、出血量を少なく、体へのダメージを非常に少なく手術を終えることができます。
腰部脊柱管狭窄症手術の入院期間、合併症、リハビリについて
手術の気になる点についてまとめておきましょう。
入院期間
一般的には除圧術では5~7日間、除圧固定術では7~10日間程度の入院が必要となりますが、内視鏡を用いた低侵襲手術では、ダメージが少ないため、3~4日程度とより短期間の入院で済ませることが可能です。
内視鏡下椎弓形成術(MEP)では、手術時間は1椎間当たり40~50分程度。術後の痛みも少なく、翌日にはご自身で立って歩いてトイレに行ったり、リハビリしたりできるようになります。
退院は術後2日ほどで可能。早期社会復帰ができるという大きな利点があります。
合併症
手術には次のような合併症が起こるリスクがあります。
- 創部感染:まれですが、手術部位にばい菌が入ってしまうことがあります。
- 神経損傷:非常に稀ですが、下肢のマヒや知覚鈍麻などが生じるケースがあります。
- 神経を包む硬膜の損傷:硬膜中の脊髄液が漏れると、その影響で術後に頭痛や嘔気が生じるおそれがあります。
- 血腫:手術の際の出血が血種(血の塊)となって残ることがあります。まれに血種が体内に長く留まると、神経を圧迫するリスクがあります。それを予防するため、術後にドレーンと呼ばれる血抜きの管を入れて対応します。
- 深部静脈血栓症:まれな合併症として起こることがあります。足からの血流が滞り、足にむくみが生じます。また、足の血管にできた血栓が血流に乗って肺に届き、肺の血管に詰まると、肺血栓症という重篤な状態になるリスクがあります。(*12)
リハビリ
除圧のみの手術の場合(とくに内視鏡による低侵襲の手術が行われたケースでは)、術後3時間から歩くことができます。低侵襲でない手術に比べると、より早期のうちに歩行練習を行なうことが可能となっています。
脊椎固定術を行った場合、術後2〜3日して傷の痛みが落ち着いてきたら、術前に作っておいたコルセットをして歩行練習に入ります。
コルセットは、退院後もおよそ3か月は着用します。(*H‐3)
腰部脊柱管狭窄症の人は、前かがみの姿勢をとると症状が楽になり、腰を反らすと症状が悪化します。
元々腰の反りが強い人は症状が強く出やすくなるため、反り腰にならないように、柔軟性を高めるストレッチ等の体操を行って姿勢の改善も行っていきます。
また、筋力低下を予防する筋トレや有酸素運動も合わせて行っていくとよいでしょう。
狭くなった脊柱管を広げる「ひざかかえストレッチ」と、姿勢の維持に役立つ「インナーマッスル筋トレ」を紹介しましょう。
ひざかかえストレッチ
①あおむけになり、両ひざをかかえる
②息を吐きながら、太ももをお腹に引き寄せ、15秒キープする
③ ①~②を5回くりかえす

インナーマッスル筋トレ
①四つ這いの姿勢から、左手と右足を上げ、15秒キープする
②次に、右手を左足を上げ、15秒キープする
③ ①~②を10回程度くりかえす

なお、痛みがあるときは無理をして行わないでください。
手と足を上げたとき、腰が反らないように注意します。
(*12)日本血管外科学会
生活上の注意
腰部脊柱管狭窄症の人が、ふだんの生活で注意したいポイントをリストアップしました。
日常生活の姿勢(禁忌肢位)
既に触れていますが、日常生活では、腰を反らす姿勢をできるだけとらないよう配慮する必要があります。
歩行の際は、前かがみの姿勢をとると楽なので、カートや杖などを利用しましょう。
腰を冷やさないよう心がけ、腰をひねったり、重いものを持ち上げたりすなど、脊椎に負担のかかる動作も避けます。同じ姿勢を取り続けないようにすることも大切です。
「自分で治す方法」とまではいかないにしても、こうした日常生活でのこまやかな配慮がこの病気の予防や再発防止に役立ちます。
寝る姿勢
横向きになって寝るか、膝の下に枕を入れて腰が曲がった状態で寝ると、楽に寝ることができるでしょう。

スポーツ
ウォーキングなどの適度な運動は、筋力低下を予防するためにも必要です。
体に負担の少ない水中ウォーキングはとくにすすめられます。

ジョギングなどの軽い運動は、除圧のみの手術の場合、術後1ヵ月から、テニスなどのスポーツは術後3ヶ月から再開可能です。固定術を行った場合は術後3ヶ月まではコルセットを着用していただき、3ヶ月以降にコルセットが外れてから運動を再開していただきます
運動を始めたら、無理をせず少しずつ強度を上げていくようにします。
ゴルフなどの腰を回転させるスポーツは術後も可能ではありますが、腰に負担がかかるので、医師と相談しながら再開時期を検討していきましょう。
受診のすすめ
手術が必要といわれるのが怖いからといって、受診自体をちゅうちょしてしまう人がいます。
しかし、痛みやしびれを感じているかたは、ためらわずにまず受診してみることが大切です。
医師に自分の症状を話し、さまざまな検査を受けることで、現在の状態を確認することができます。
神経根型であれば、自然経過で治癒する人も一定の割合で存在します。
一方、馬尾型は、放っておいてもよくなることは考えにくく、加齢によって悪化していく傾向があります。
診断と検査によって、現状をしっかり把握できれば、症状を改善していくための適切な道すじも見えてくるはず。
担当医のアドバイスに従って治療を続けることが、手術を回避するための最も有用なルートとなるはずです。
まとめ
腰部脊柱管狭窄症は、生死にかかわる病気ではありませんが、高齢者にとっては、大きな負担となりかねない疾患です。
というのも、この病気は進行性で、悪化していけば、生活に大きな支障をきたすことになるからです。重症化し歩けなくなれば、寝たきりや認知症に陥るリスクも高くなります。
下肢の痛みやしびれを自覚するようになったら、早めに受診し、症状が悪化する前に整形外科で治療を始めていきましょう。この病気の予防・改善が健康長寿にもつながるのです。


