このページのポイント
- 「切らない・削らない」先進治療
神経や骨を操作せず、微弱な電気で痛みの伝わり方を整える低侵襲な治療です 。 - トライアルで効果を試せる
本植込みの前に数日間の「お試し」ができ、納得してから治療を進めるか判断できます 。 - 他院術後の痛みや高齢者にも対応
「手術後に痛みが残った」「大きな手術は体力が心配」という方にも有効な選択肢となります 。 - 短時間の手術と短期入院
手術時間は最短20分程度、入院期間も3〜4日と身体への負担を最小限に抑えています 。 - 国内有数の実績と専門性
認定資格を持つ経験豊富な専門医が、一人ひとりの痛みの原因を丁寧に再評価します 。
脊髄刺激療法(SCS)とは
「腰や足の痛み・しびれが何年も続いている」
「手術を受けたのに痛みだけ残った(他院術後)」
「薬やブロック、リハビリを頑張っても限界を感じる」
そんな慢性疼痛で悩む方に、近年重要な選択肢となっているのが脊髄刺激療法(SCS:Spinal Cord Stimulation)です。
SCSは、脊髄の近くに細い電極(リード)を留置し、微弱な電気刺激で神経の働きを調整するニューロモデュレーション(神経調整)治療です。ポイントは、従来の「痛みの原因を切除する」「神経を直接操作する」治療と違い、神経を切ったり脊椎を削ったりせずに“痛みの伝達”をコントロールすること。
さらに、SCSには大きな強みがあります。まずトライアル(試験刺激)を行い、効果を確認してから本植込みへ進める――この“やってみてから決められる治療”は、他の手術にはないSCSの唯一無二の特徴です。
「脊髄刺激療法」や「SCS」という言葉はあまり聞き慣れないかもしれません。
実際、日本ではまだ比較的知られていない治療と思われますが、世界的には数十年にわたって実施され、安全性と効果が蓄積されてきた治療法です。海外のデータでは、毎年およそ3~5万人の患者さんがSCSの手術を受けていると報告されています。これは、世界中では欧米を中心に慢性疼痛に悩む多くの方が、痛みの改善や生活の質向上を目的にこの治療を選んでいることを示しています。
また、世界で35万人以上の方がこれまでにSCS治療を受けているという実績もあり、長期にわたる臨床使用が積み重ねられていることがわかります。
本記事では、脊椎脊髄外科専門医の立場から、SCSの仕組み、適応、トライアルの流れ、手術時間・入院期間、合併症、エビデンス、他院術後や高齢者の方への考え方まで、わかりやすく整理します。

【図挿入】SCSの模式図(リード/刺激装置/痛みの伝わり方が変わるイメージ)
【図挿入】従来治療(薬・ブロック・手術)とSCSの位置づけ(階段図)
SCS(脊髄刺激療法)で「できること」
脊髄刺激療法(SCS)は痛みをゼロにする治療ではなく、「生活を取り戻す」ための治療
慢性の痛みは、画像で説明できる物理的な圧迫だけでなく、神経の過敏化や脳・脊髄の痛み回路の変化など、複数の要素で続くことがあります。SCSはその中でも、神経障害性疼痛(神経が過敏になって起こる痛み)に対して有効性が示されてきた治療です。特に、腰椎手術後に痛みが残る状態(いわゆるFBSS:Failed Back Surgery Syndrome)には効果があり、従来の脊椎手術単独よりSCSの方が成績がよかったという報告もあります。
SCSで目指すのは以下です。
- 痛みの強さを減らし
- 睡眠や歩行、家事、仕事、趣味などの日常を取り戻し
- 薬の量や回数を減らせる可能性を作る
(※効果や薬の減量可否には個人差があります)
「神経をいじる治療なのでは?」という不安へ
SCSは、脊髄や神経や背骨をを切る・削るという従来の脊椎治療ではありません。リードは脊髄の中に入れるのではなく、脊髄を包む硬膜の外側(硬膜外腔)に留置します。つまり、神経には一切ふれない安全性の高い治療です。
また、刺激といってもビリビリとした電気刺激ではなく、非常に微弱なものであり、設定(プログラム)を後から調整できます。必要なら停止も可能で、トライアルで効果が乏しければリードを抜去して元の状態に戻せます。
参考文献
・Kumar K, et al. SCS vs conventional medical management in FBSS(PROCESS trial)Pain. 2007.
・NICE. Spinal cord stimulation for chronic neuropathic/ischaemic pain(TA159)2008
・Shanthanna H, et al. SCSの患者選択とトライアルに関する合意ガイドライン. 2023.
・Elliott T, et al. Spinal Cord Stimulation Guidelines and Consensus Statements: Systematic Review and Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation II Assessment. Neuromodulation: Technology at the Neural Interface.2025.
SCSが向いている痛み・向いていない痛み
対象となる痛みは幅広いが、「誰にでも効く治療」ではない。だからこそトライアルが重要。
脊髄刺激療法(SCS)が向いていることが多いケース(代表例)
- 他院術後でも痛みが残る(腰椎手術後の下肢痛・腰痛、FBSS)
- 神経障害性疼痛が疑われる(焼けるような痛み、電気が走る痛み等)
- 鎮痛剤などの内服治療には限界がある
- 大きな固定術などに抵抗があり、低侵襲な選択肢を検討したい
- 高齢で手術侵襲をできるだけ少なくしたい
など、脊椎外科外来で扱うほとんどの痛みがSCSの治療対象になります。
しかし、残念ながら以下のようなケースではあまり効果がないこともあります。
脊髄刺激療法(SCS)が向きにくい/やや注意が必要なケース
- 痛みの原因が、強い神経の圧迫、椎間関節の不安定性などであり、まずは除圧や固定術が必要と予想される場合
- 痛みの評価が安定しない(急性期で経過が読めない、他の疾患の影響が強い等)
- 黄色靭帯骨化症でリード挿入が難しい/不可能
もちろん効きづらいかもしれないと予想していても、しっかりとした除痛が得られる場合もあります。だからこそ当院では、SCSが合うかどうかを丁寧に見極めるためにも、納得したうえで本番の手術に臨んでいただくうえでも、トライアルを推奨しています。
参考文献
・Kumar K, et al. SCS vs conventional medical management in FBSS(PROCESS trial)Pain. 2007.
・Shanthanna H, et al. SCSの患者選択とトライアルに関する合意ガイドライン. 2023.
脊髄刺激療法(SCS)のトライアル(試験刺激)
効果を確かめてから本植込みへ。「やってみてから決められる」治療
SCS最大の特徴は、繰り返しお伝えしているように、いきなり本植込みをしないことです。まずは数日間のトライアルを行い、日常動作が「どれくらい楽になるか」を確認します。合意ガイドラインでも、トライアルは治療予測・効果判定に非常に重要な役割があると整理されています。
脊髄刺激療法(SCS)トライアルで確認するポイント
- 痛みの強さがどの程度変化したか(例:痛みスコア)
- 歩行距離、家事動作、睡眠など生活指標がどう変わったか
- 薬の回数が減りそうか(もちろん、無理に減らす必要はありません)
- しびれ感・違和感がないか
一般には「いちばん痛みが強い時を10として、痛みが半分の5程度になるか」などということが目安として使われることがありますが、何よりも大切なのは「あなたの生活がどう変わったか、もしくは変わりそうか」ということです。
数字だけで決めず、日常生活で必要な基本動作の改善、疼痛の改善の程度で判断します。
痛みを数値化するのは難しいので、「いつもやっている動作が楽にできるようになったか」「普段よりも休憩の回数がへったか」という程度で構いません。
脊髄刺激療法(SCS)は効果がなければ「戻せる」
トライアルで十分な効果がなければ、リードを抜去して終了します。体に機器が残るわけではなく、元の状態に戻れるため、「試してから決めたい」という方に適しています。

【図挿入】トライアル → 効果判定 → 本植込み(または終了)のフローチャート
参考文献
・h Kumar K, et al. SCS vs conventional medical management in FBSS(PROCESS trial)Pain. 2007.
・Shanthanna H, et al. SCSの患者選択とトライアルに関する合意ガイドライン. 2023.
手術の流れ(当院の特徴:低侵襲・短時間)
「大きい手術が怖い」方にも、現実的な選択肢として
SCSは脊椎手術の一種ですが、一般にイメージされる「骨を削る」「神経を直接触る」という手術とは性質が全く異なります。
まずトライアル手術ではほぼ傷ができません。さらに本植込みでも、リードを硬膜外に留置し、刺激装置を皮下に埋め込むだけなので、侵襲はかなり少なくなっています。
トライアル手術(手術時間は20分程度)
背中に3㎜程度の小さい刺し傷を2カ所つくり、そこからリードを挿入します。一般的な手術時間は1〜1.5時間程度と言われることがありますが、当院では手技の標準化と経験の蓄積により、トライアルは約20分で実施しています(※患者様の体格、側弯の有無、今までうけてきた脊椎手術の影響などで時間は多少変動します)。
トライアル後は日常生活に近い環境で2日程度入院していただき、効果判定を行います。
本植込み(手術時間は40~60分)
本植込みも一般的な手術時間は2〜3時間と言われることがありますが、当院では40~60分程度で終了します(※トライアル同様に多少の個人差あり)。本植込みでは、
- リード(電極)
- 刺激装置(バッテリー)
を皮下に留置します。術後はプログラム調整を行い、「あなたに合う刺激」を一緒に作っていきます。

【図挿入】リード留置(硬膜外)と刺激装置(皮下)の位置関係
【図挿入】術後フォロー(プログラミング調整)のイメージ
参考文献
・Shanthanna H, et al. 患者選択とトライアルの位置づけ. 2023.
入院期間と術後の過ごし方
短期入院(3日程度)を目指し、早い生活復帰へ
当院では、患者さんの安全を最優先にしながら、入院期間は3〜4日程度を目安に計画することが多いです。手術後は当日もしくは翌日から歩行が可能で、日常生活動作を確認しながら退院へ進みます。
術前から日常生活レベルが低い方や、歩行機能の低下が大きい方は、効果が出るまで少し時間を要する場合があります。
術後に気をつけたいこと
- リードが安定するまで、急なひねり・強い前屈などを控える期間があります
- 痛みの変化に合わせて、外来で刺激設定を調整します
- CTやMRIは問題なくできますが、画像検査前にリモコンで刺激をOFFする必要があります(方法はしっかりとご指導します。ボタン一つ押すだけの非常に簡単な操作ですので安心して下さい)
参考文献
・Shanthanna H, et al. 周術期管理・フォローの重要性. 2023.
・Elliott T, et al. Spinal Cord Stimulation Guidelines and Consensus Statements: Systematic Review and Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation II Assessment. Neuromodulation: Technology at the Neural Interface.2025.
安全性と合併症
「低侵襲=ノーリスク」ではない。だからこそ施設経験と手順が重要
SCSは比較的低侵襲な治療として位置づけられますが、医療行為である以上リスクはゼロではありません。
主なものは、以下です。
- 感染(創部・機器周囲)
- リードのずれによる効果の低下
- 硬膜穿刺による頭痛
- 皮下ポケット部の痛み・違和感
当院では、適応の見極め、清潔操作、周術期の抗菌薬、創部管理、術後フォローの標準化により、合併症やリスクを極限まで減らす工夫を重ねています。ここは「最新機器」よりも、専門医の経験と手順、そして医療機関のチーム力が重要になってくると考えます。
参考文献
・Kumar K, et al. SCS vs conventional medical management in FBSS(PROCESS trial)Pain. 2007.
・NICE. Spinal cord stimulation for chronic neuropathic/ischaemic pain(TA159)2008
・Shanthanna H, et al. SCSの患者選択とトライアルに関する合意ガイドライン. 2023.
エビデンス(効果の根拠)
なぜ「なおらない痛み」にSCSが選択肢になるのか
脊髄刺激療法(SCS)は、特別な民間療法や新しい実験治療ではありません。長く続く神経の痛みに対して、海外を中心に多くの調査が行われ、医療の中で位置づけられてきた治療法です。
代表的な調査では、腰の手術を受けたあとも足や腰の痛みが残っている患者さんを対象に、通常の薬やリハビリだけを続けた場合と、SCSを併用した場合を比較しました。その結果、SCSを行ったグループのほうが、痛みが軽くなり、日常生活のしやすさや満足度が高かったことが報告されています。これは、「原因となる手術は終わっているのに痛みだけが残る」状態に対して、SCSが役立つ可能性を示しています。
また最近では、刺激の方法も進歩し、ビリビリした感覚をほとんど感じずに痛みを和らげられるタイプも使われるようになっています。こうした改良により、治療を受けやすくなってきていると考えます。
このようにSCSは幅広い腰痛、下肢痛に効果を発揮しますが、どうしても効かない痛みもあります。そのため現在の医療では、まずトライアルを行い、実際に痛みや生活がどの程度変わるかを確かめてから、本植込みを考えることが重要だとされています。当院でも、この考え方を大切にし、トライアルを実施して効果が期待できる方に本植込みを提案しています。
SCSは、「他の病院で脊椎手術を受けたけど治らない」「もう治しようがない言われた」痛みに対して、「大きい手術は怖い」「高齢だから手術の負担を減らしたい」という希望を叶えながら、改善の可能性を探るための治療です。
エビデンスに基づき、患者さん一人ひとりの生活を良くすることを目標に、慎重に治療を進めていきます。
参考文献
・Kapural L, et al. SENZA-RCT(10kHz SCS). 2015.
高齢者でも治療可能?
年齢ではなく「全身状態」と「痛みの影響」を見る
「高齢だから無理」と決めつける必要はありません。SCSは、骨を大きく削る従来の除圧術や、スクリューを使う固定術などと比べると格段に侵襲を抑えやすく、全身状態が許す範囲で選択肢になり得る治療です。もちろん、心肺機能、内服(抗凝固薬など)、感染リスク、生活背景を含めて慎重に評価します。
逆に痛みが強いまま活動量が落ちると、筋力低下や転倒リスクが増え、生活レベルがさらに低下する危険性があります。SCSは「大きな手術が怖い方」にとって、生活機能を守るための現実的な選択肢になり得ます。
実際に90歳代の方も多くSCSを受けられ、良好な治療成績が得られています。
他院術後でも大丈夫?
「残る痛み」には理由がある。今の状態を再評価することが第一歩
「手術をしたのに痛みが残る」「別の病院では、もうリハビリしかないと言われた」
こうした悩みは珍しくありません。慢性疼痛では、画像上の異常だけでなく、神経の過敏化や痛み回路の変化が関わっていることがあり、また同じ部分への再手術が必ずしも最適とは限らない場面があります。脊椎術後のFBSSと呼ばれる痛み・しびれに対しSCSが従来の脊椎治療より効果がたかいという報告があるのは、この背景と整合します。
当院では、前医の治療を決して否定するのではなく、
- 今の症状の主因は何か
- 追加の除圧や固定が本当に必要な状態なのか
- それともSCSの適応なのか
ということを再構築し、トライアルで「本当に痛みがとれるか、生活が変わるか」を確認した上で、本植込みを検討します。
よくある質問(Q&A)
Q1. トライアルで効果がなかったらどうなりますか?
効果が乏しければ、リードを抜去して終了します。体内に機器は残らず、元の状態に戻れます。
Q2. 「神経に電気を流す」と聞くと怖いのですが…
刺激は微弱で、脊髄や神経を切ったり触ったりする治療ではありません。設定は後から調整でき、必要なら停止も可能です。
Q3. ずっと通院が必要ですか?
術後は創部が落ち着けば、あとは必要に応じて刺激設定の調整(プログラミング)で受診していただくだけになります。頻回の受診は不要です。1~3か月毎に来院される方が多いですが、症状が安定している場合は半年、1年、それ以上と間隔をあけても問題ありません。
参考文献・Kapural L, et al. Novel 10-kHz High-frequency Therapy (HF10 Therapy) Is Superior to Traditional Low-frequency Spinal Cord Stimulation for the Treatment of Chronic Back and Leg Pain: The SENZA-RCT Randomized Controlled Trial. 2015.
世田谷人工関節・脊椎クリニックでできること
SCSは「どこでもできる治療」ではありません。経験・手順が結果を左右します
SCSは、実施にあたり施設要件やトレーニングが求められる治療で、実施できる医療機関・術者はまだ限られています。当院には、SCSの資格を有し、国内でも有数の症例数を経験している脊椎脊髄専門医が在籍しています。さらに、手技や適応判断のノウハウを共有するため、他院医師への手術指導や見学受け入れも積極的に行っています。
当院が大切にしているのは、
- 「SCSが本当に合う痛みか」を専門的に見極めること
- トライアルで効果を確認してから本植込みへ進むこと
- 低侵襲で短期入院(3〜4日程度)を目指し、生活復帰まで支えること
- 他院術後や難治例でも、原因を再評価して道筋をつくること
です。
「大きな手術が怖い」「もう治らないと言われた」――そう感じている方こそ、他の医療機関では見つからなかった治療の選択肢が残っている場合があります。まずは、痛みの性質とこれまでの治療経過を整理するところから、


