
「心肺機能は元気なのに、足だけが動かない」
こんにちは、世田谷人工関節・脊椎クリニック 脊椎脊髄外科の大友 望です。
マラソンやジョギングを愛好されている患者様から、診察室で最もよく聞く悩みのひとつに「息は全然上がっていないのに、ふくらはぎがパンパンに張って、前に進めなくなる」という訴えがあります。
- 「走り始めて数100メートルで、足がしびれて止まってしまう」
- 「しゃがみ込んで少し休むと治るけれど、走り出すとまたすぐ痛くなる」
- 「タイムを狙うどころか、ふつうに走ることすらできなくなってしまった」
もし、あなたがこのような症状に悩まされているなら、それは単なる筋肉疲労や練習不足ではありません。「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」である可能性があります。
なぜ、ランナーは「狭窄症」に苦しむのか?
脊柱管狭窄症の最大の特徴は、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状です。 これは、背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、立ったり歩いたりすることで神経が圧迫され、足への血流や指令が途絶えてしまう現象です。
ランナーの方にとって、これほど残酷なことはありません。 日々のトレーニングで鍛えた心臓(エンジン)は最高なのに、足を動かすための神経(電気配線)が腰でおかしくなっている状態だからです。
「もう歳だから、ランニングは引退かな…」 そう諦めてしまう前に、知っていただきたいことがあります。
「手術=ランニング引退」ではありません
多くのランナーの方が、手術に対してこのような誤解を持っています。 「背骨の手術をしたら、強度が落ちて二度と走れなくなるんじゃないか?」
一昔前の、背中を大きく切ってボルトで固定する手術であれば、確かにパフォーマンスへの影響は大きかったかもしれません。 しかし、医療技術は進化しています(もちろんボルトで固定する手術であっても、スポーツ復帰は可能です!)
当院で行っている「内視鏡下椎弓形成術(MEL)」は、ランナーなどスポーツを愛する患者様と非常に相性の良い手術です。
1. 筋肉を傷つけない
傷口はわずか16mm程度。背骨を支える大切な背筋を温存したまま、神経を圧迫している靭帯や余分な骨だけをピンポイントで削り取ります。
2. 背骨の動きを温存できる
ボルトで固定しないため、背骨本来の「しなり」や可動域が保たれます。これはランニングのフォームを維持する上で非常に重要です。
復帰までの目安(ロードマップ)
個人差はありますが、内視鏡手術を受けた場合、おおよそ以下のようなスケジュールでランニングへの復帰を目指します。
- 術後翌日〜: 歩行開始
- 術後1ヶ月〜: 軽い筋トレ再開
- 術後2ヶ月~: 土や芝生の上での軽いジョギング開始
- 術後3ヶ月~: 本格的なランニング再開!
「詰まり」さえ取ってしまえば、足への血流が再開し、本来のパフォーマンスを取り戻すことができます。
最後に:ゴールのテープをもう一度切るために
「痛みを我慢しながら、だましだまし走る」 それも一つの選択ですが、神経へのダメージが蓄積し、ランニングどころか日常生活での歩行さえ困難になってしまうリスクがあります。
私たちは、ただ痛みをとるというだけでなく、その先にある「また楽しく走れるようになること」をゴールに設定して治療を行います。趣味をまた楽しみたい、というのも手術を受ける立派な理由になると思っています。
「来年のマラソン大会にエントリーしたい」 そんな目標を、ぜひご相談ください。
あなたのランナー人生の第2章を、脊椎外科医として全力でサポートします。
【執筆】大友望 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定 指導医
日本専門医機構 脊椎脊髄外科専門医