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- 椎間板の中にある組織(髄核)が飛び出し、神経を圧迫することで、足の痛みやしびれ、力が入らないなどの症状を引き起こす病気です 。
- 20代〜40代の比較的若い世代に多く、長時間の運転や重労働などの環境要因、加齢、喫煙、遺伝的要因などが複雑に絡み合って発症します 。
- 確定診断にはMRI検査が不可欠であり、まずは保存療法(薬物・装具・運動療法)で経過を見ますが、改善しない場合や麻痺・排尿障害がある場合は低侵襲な手術が検討されます 。
- 一度飛び出したヘルニアは自然に消えることもありますが、悪化・再発防止のために禁煙を心がけ、中腰での作業や重いものを持つなど腰に負担がかかる動作を避けることが重要です 。
腰椎椎間板ヘルニアとは?
腰椎椎間板ヘルニアという言葉は一度はお聞きになったことがあると思います。では、腰椎椎間板ヘルニアとは、いったいどんな病気でしょうか。最初に、「ヘルニアとは何か」ということから説明します。
ヘルニアとは?
背骨は、「椎骨」という小さな骨と「椎間板」が交互に積み重なり、靭帯でつなげられてできています。椎間板は、各椎骨と椎骨の間にあって背骨にかかる力を吸収するクッションの役割を果たしています。
椎間板の内部には髄核と呼ばれるゼリー状の組織があり、その周囲はより固い線維輪によって包まれています。 何らかの理由で線維輪に亀裂ができると、髄核はやわらかく移動しやすい物質なので、亀裂から押し出され飛び出します。

ヘルニアとは「何かが飛び出す」の意。このとき飛び出した髄核の一部が後方にある神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こします。
これが、「椎間板ヘルニア」と呼ばれる症状です。 (*1)(*2)
背骨は、頸椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)に分けられますが、腰椎部分で起こるヘルニアが「腰椎椎間板ヘルニア」と呼ばれます。
椎間板ヘルニアの発症年齢
腰椎椎間板ヘルニアの有病率は、およそ1%前後とされています。10代では比較的少なく、20代〜40代の青・壮年期に多く発症し、男性にやや多い傾向があります。
腰椎椎間板ヘルニアの好発部位は、第4腰椎と第5腰椎との間、第5腰椎と第1仙椎との間です。(*3)。

椎骨は、前の部分である「椎体」と、後ろの部分の「椎弓」からなり、椎体と椎弓の間には「脊柱管」という管が首から仙骨上部まで通っています。この脊柱管の中に脊髄と馬尾神経が通っています。
腰椎椎間板ヘルニアでは、椎間板から飛び出した髄核の一部が後方の馬尾神経などを圧迫して症状が起りますが、50代以降は、ヘルニアに似たような症状を引き起こす腰部脊柱管狭窄症に悩む人のほうが多くなっていきます。
ただし、高齢者でもヘルニアを発症することはあります。
腰部脊柱管狭窄症との違い
腰部脊柱管狭窄症は、脊髄神経が通る脊柱管が狭くなることで引き起こされる疾患です。狭窄症でも、腰椎椎間板ヘルニアと非常によく似た坐骨神経痛の症状が起こります。 両者の違いは次のようなものになります。
- 好発年代
- 痛みの出やすい条件
- 間欠性跛行の有無
腰部脊柱管狭窄症は主に加齢などによる黄色靭帯の肥厚などが原因で脊柱管が狭められて起こります。これに対して、腰椎椎間板ヘルニアは、飛び出した髄核が神経を圧迫することで生じます。

好発年代にも違いがあります。腰部椎間板ヘルニアは20代以降の青壮年世代を中心に見られることが多いですが、腰部脊柱管狭窄症は60〜70歳代に好発すると言われています。
腰部椎間板ヘルニアは、前屈みになったり、イスに座ったりしている時に痛みが出ます。腰をまるめるより、少し腰を反らしたほうが楽に感じます。
一方、腰部脊柱管狭窄症は、立ち上がって体を反らしたときに痛みが出て、前屈みの姿勢をとると楽になることが多いとされています。
腰部脊柱管狭窄症では、歩いたり、立ったりしている時間が長くなると、下肢痛みやしびれが出る「間欠性跛行」という特徴的な症状が出ますが、腰椎椎間板ヘルニアでは、生じることは少ないです。
似たような症状が出る、この2つの疾患の違いを理解しておくと、日常生活での対処がしやすくなります。
ただし、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症が同時に生じることは決して珍しくなく、2つの症状が混在していることはよくあります。必ずしもどちらか片方だけが生じるわけではありません。 (*4)
(*1)厚生労働省 今日の腰痛予防対策マニュアル
(*2)日本脊髄外科学会
(*3)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(改訂第 3 版) 18頁
(*4)日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン 第1版“ダイジェスト版” 9p
腰椎椎間板ヘルニアの原因
椎間板ヘルニアを引き起こす要因はいろいろあります。
主な発症要因
- 環境要因(姿勢・動作・職業)
- 加齢
- 喫煙・遺伝要因(体質・骨の形)など
日常生活で腰への負荷がかかることが、有力な発症要因の1つとなっており、長時間の運転や、中腰での作業、重い物の持ち運びなどがそれに該当します。

立ったままの姿勢で前屈みになると、体重の約2.5倍の負荷が腰にかかるといわれ、こうした姿勢のくりかえしが椎間板に変性をもたらします。
事務職などのホワイトカラーに比べて、重労働者(ブルーカラー)での発症率が高く、とくに男性では、職業運転手、金属・機械業労働者で発症リスクの高いことがわかっています。
女性では、職業よりも、仕事量との関連が深いとされています。(*4)
椎間板は水分を多く含んだ組織ですが、年齢と共に水分が減り柔軟性が失われます。すると、椎間板が傷みやすくなり、これもヘルニアが起こりやすくなる要因となります。
急に強い力が腰へ加わっても椎間板は傷つきます。加齢によって、椎間板が傷みやすくなっていると、重いものを急に持ち上げることや、くしゃみがヘルニア発症のきっかけとなることがあります。
喫煙も椎間板に影響を及ぼし、発症リスクを増加させるとされています。
また、原因がなくても起こります。姿勢や動作、職業といった要因がなくても、ヘルニアが発症することがあり、遺伝的要因も関係している場合があります。
最近の研究では、成人では椎間板ヘルニアを持っている人のほうが多いとされています。しかし、椎間板ヘルニアで腰痛を起こしている人は、そのごく一部。つまり、ヘルニアがあるだけでは、症状が起こらないということです。
発症には、ほかの要因が加わっていると考えられています。職場や家庭内の不満やストレス、うつなどの精神的要因が関係している可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアのタイプ別の症状と自然治癒の可能性
腰椎椎間板ヘルニアは腰から下肢にかけて症状が現われます。症状を以下にまとめておきましょう。
腰椎椎間板ヘルニアの症状とは?
腰椎椎間板ヘルニアでは、次のような症状が生じます。
- 腰痛
- 臀部痛
- 下肢の痛みやしびれ
- 下肢の筋力低下
- 下肢の知覚障害(感覚が過敏になったり、逆に感じにくくなったりします)
- 排尿障害・排便障害 など
腰椎椎間板ヘルニアには、急性型と慢性型があります。急性型のごく初期は、たいてい腰痛だけであることが多く、腰の違和感が先行し、重い物を持ち上げたり、急な動作をしたりした際の突然の痛みとして現れます。

急性期には、痛みのため、体が横に傾いたままになってしまう症状(「疼痛性側弯」といいます)などが出ることもあります。 (*5)
急性型の場合、1週間〜1ヵ月程で次第に症状は軽くなることが多いと言われていますが、椎間板の損傷がひどかったり、ヘルニアによる神経の圧迫程度が強かったりした場合はなかなか症状が改善せず、神経の炎症が長引き、慢性型へと移行していきます。
ヘルニアの進行にしたがって、臀部痛から下肢へと痛みやしびれが広がっていきます。いわゆる「坐骨神経痛」の症状が強く見られるようになります。
ここで重要なことは、坐骨神経痛は、病名ではなく、あくまでも症状の名称ということです。よく他の病院で「坐骨神経痛」と診断を受けただけで、それ以上の検査も治療もされていない場合があります。しかし、それはお腹が痛くて内科に受診したら「腹痛」と診断をうけて、それ以上の治療をされないのと同じことです。
症状が進行し、神経組織の圧迫が強くなるほど、痛みやしびれが強くなり、神経の機能障害(筋力低下、知覚障害)なども出現するようになります。
重症化すると、足の皮膚の感覚が鈍くなったり、足に力が入りにくくなったりします。膀胱や直腸をコントロールする神経までを障害し、会陰部のしびれや残尿感、失禁、便秘が出現したりすることもあります。
椎間板ヘルニアの2つのタイプ
腰椎椎間板ヘルニアは、圧迫される神経によって、2つのタイプに分けられます
- 神経根型
- 馬尾型
神経型
神経根型は、脊柱管を通っている神経から枝分かれし、左右へ伸びる神経の根元の部分である神経根がヘルニアで圧迫される場合です。
主に、片側性で、片側の下肢や臀部の痛みやしびれといった神経根症状が出現します。
馬尾形
馬尾型は、神経の大元である神経の束(=馬尾神経と呼ばれる)が圧迫されるタイプ。
両側性で、両側の下肢や臀部にしびれやだるさなどが生じます。悪化すると、尿失禁・便失禁、尿閉などの膀胱直腸障害や性機能障害が起こってきます。馬尾型のほうが、神経根型に比べて危険度が高いとされています。
ヘルニアの自然治癒について
椎間板ヘルニアは自然軽快する場合もあります。
自然に治る場合は発症して2~3ヶ月程度で症状が回復することが多いと言われていますが、逆に2~3ヶ月以上症状が遷延している場合は、自然軽快があまり期待できないと言えます。
症状の出ている腰椎椎間板ヘルニアを画像で追跡確認を行なうと、半数程度に自然消失が認められたという報告もあります。(*3)
整形外科医にとっては以前から常識になっていることですが、この事実は、一般にはまだあまり知られていません。
ただし、すべての椎間板ヘルニアが自然に消えるわけではありません。消えやすいケースと、消えにくいケースがあるのです。
消えやすいのは、髄核が椎間板と神経の間の後縦靭帯を突き破っている「遊離タイプ」と言われるヘルニアの場合です。免疫細胞が反応し、飛び出した髄核を食べるため、ヘルニアが自然に消えるという現象が起こります。
髄核が後縦靭帯を破っていない場合は免疫細胞が反応しにくいため、自然治癒は起こりにくいとされています。ただし、前者の遊離タイプでも必ずしも自然消退するわけではなく、自然治癒しない場合もあります。
(*5) 厚生労働省 腰痛対策 26p
(*3) 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(改訂第 3 版) 20頁
腰椎椎間板ヘルニアの検査と診断
腰椎椎間板ヘルニアの診断には、主に次のような検査を行います。
- 問診、触診
- 下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)
- レントゲン検査
- MRI など(*6)
下肢伸展挙上試験(SLRテスト)とは?
下肢伸展挙上テスト、通称SLRテストは、腰から足先に向かって伸びる坐骨神経の障害を調べるテストです。
よく似た症状が出る股関節痛との判別にも使われます。
FNSテストも、SLRテストと同様にヘルニアの診断に使われる検査のひとつです。

下肢伸展挙上テストの手順
- あおむけに寝ます
- 膝を伸ばしたまま少しずつ足を上げていきます。
椎間板ヘルニアの場合、足を挙げると痛みが発生します。足を挙げても痛みがないケースは、股関節痛が原因と判断できます。
SLRテストは、椎間板ヘルニアかどうかを簡便に判断することができるため、診察時に行われることが多いですが、患者様の痛みを誘発させ、苦痛を伴う検査でもあるため、毎回実施されるわけではありません。
レントゲン検査とMRI
レントゲン検査では、腰椎椎間板ヘルニアの診断はできません。それでもレントゲンを撮る必要があるのは、椎間板ヘルニア以外の病気が隠れていないか確認するため。
若い人なら腰椎分離症、高齢者なら腰椎変性すべり症や、骨粗鬆症による圧迫骨折がないかなどをチェックします。
しかし、レントゲンだけではヘルニアそのものを見ることはできないため、、MRIは必須の検査となります。
椎間板ヘルニアの場所や大きさや形、さらに神経がどれだけ圧迫されているかを正しく評価するためにはMRI検査が大変有用です。
また、そのヘルニアが自然軽快しやすいものなのか、そうではないのかという判断や、どのような治療がふさわしいかなども、MRI検査を行うことである程度判断できます。
MRI検査が実施できない特殊な場合(MRI非対応のペースメーカーが埋め込まれていたり、閉所恐怖症であったりした場合です)、造影剤を使用したレントゲン検査やCT検査などを行うケースもあります。
(*6)日本整形外科学会
腰椎椎間板ヘルニアの保存療法
腰椎椎間板ヘルニアは、自然消失(治癒)する、あるいは、治療によってよくなる可能性がある病気と考えられています。そのため、症状が軽い場合や、症状出現してからの時期が浅い場合は、まずは保存的治療を行っていきます。
保存療法の主な手段
- 薬物療法
- 装具療法
- 理学療法
- 運動療法 など(*6)
基本の薬物療法
薬物療法は、椎間板ヘルニア治療の基本療法です。
主に使われる薬は、以下です。
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
- アセトアミノフェン
- オピオイド鎮痛薬
- プレガバリン(神経障害性疼痛治療薬)
「ビリビリ」「ジンジン」と表現されるような神経の痛みが強い場合には、神経症状に効果が認められている薬を使用します。
薬物療法で痛みを抑えながら、なるべく普段通りの生活を送り、QOL(生活の質)を下げないことが大切です。
しかし、これらの薬物の副作用には注意が必要です。特に神経症状に効果のある薬剤は、眠気やふらつき、吐き気といった日常生活に支障をきたす嫌な副作用がしゅつげんする場合もあり、その副作用の影響で服薬が継続できない場合もあります。
また、この薬物療法は、あくまでも「症状の緩和」を目的としており、「ヘルニアそのものを改善させるわけではない」ということを忘れないで下さい。
装具療法・理学療法
腰や足の痛みが強い時期には、痛みの強さに応じて活動を制限し、安静を保つことも治療法の一つです。安静を保つことで、圧迫されている腰の神経周囲の炎症の鎮静化が期待できます。
装具療法は、コルセットなどによってヘルニアが生じている場所を固定する治療法。
急性期に痛みを和らげる効果があるといわれています。コルセットで腰に負担をかけないようにして、リハビリを始めます。
リハビリを継続し、体幹・筋力を鍛え、多少の負担にも耐えることのできる身体づくりをすることが大切です。
手術以外では、完全に元の位置へ戻すことはできませんが、軽度のうちにリハビリを開始することで、支障なく日常生活を送れるようになるケースもあります。
運動療法
痛みが軽くなってきたら、腰に負担のかからない姿勢、動作を心がけ、運動療法を少しずつ取り入れていきます。
運動療法としては、マッケンジー体操(マッケンジー体操は、ニュージーランドの理学療法士、ロビン・マッケンジー氏が考案した腰痛のための治療体操。 (*4))などが勧められます。(*4)
しかし、これはあくまでも痛みが軽かったり、症状が出現してから日が浅かったり、全体的に症状が軽度の場合にのみ行うようにしてください。既に症状が進行している場合に行っても効果がないばかりか、かえって症状を進行させたり、適切な治療を受けるタイミングを逸したり、状態を悪化させる要因となるので注意が必要です。

(*6)日本整形外科学会
(*4)日本理学療法士協会 理学療法診療ガイドライン 第1版“ダイジェスト版” 16p
腰椎椎間板ヘルニアの手術療法
ヘルニアが消えやすいタイプと診断された場合、保存治療を2〜3カ月行い、様子を見ます。2~3ヵ月以上行っても効果がなかった場合、手術をおすすめします。また、そもそも筋力低下や重度の感覚障害が出現している等、2カ月も放置せずにできるだけ早期にヘルニアを摘出した方が良い場合や、痛みが強くて2カ月待つことが困難である場合も、早期手術を推奨しています。
手術の主な適応条件
- 保存治療で効果がなかった場合
- 強い神経症状や排尿・排便障害などがある場合
- 痛みが強い、薬剤を長期服用したくない等、患者様からの要望があった場合
「来月予定している旅行前になおしておきたい」「早くスポーツ復帰をしたい」「仕事に万全の体で望みたい」など、もろもろの事情で自然治癒を待つのではなく、手術を希望されるケースでは、患者の要望で早期にヘルニア摘出をする場合も多くあります。
また、重度の筋力低下や麻痺など神経症状が強く現れていたり、尿閉(尿がでなくなることを言います)や、排尿の感覚が消失するといった重度の排尿障害が起きたりしている場合、緊急手術となることがあります。
椎間板ヘルニアの2タイプの手術法
椎間板ヘルニアの手術は大きく2つに分けられます。
皮膚を切開し、ヘルニアを取り除く椎間板ヘルニア摘出術と、切開せずに注射で酵素薬を椎間板に注入する椎間板内治療です。
ヘルニア摘出術はヘルニアそのものを取り出すため、神経への圧迫をいち早く取り除くことができます。これら腰椎椎間板ヘルニアに対する唯一の根本的治療となります。
椎間板内治療は、ヘルニアの症状が軽度〜中程度で、外科的治療をしなくてもよいと判断された場合など、限定された症例にのみすすめられる方法です。
1. 切除術
椎間板ヘルニア摘出術には、皮膚に切開をいれてヘルニアを摘出する従来の方法と、内視鏡下でヘルニアを摘出する方法と、主に2つの治療法があります。
従来の方法は、LOVE法と言われ、椎間板ヘルニアで最も一般的に行われてきた手術法です。LOVE法では、腰部に4㎝程度の皮膚切開をいれて、筋肉を避けながらアプローチして神経からヘルニアを剥がし切除します。
内視鏡下での腰椎間板ヘルニア摘出術(MED)は、内視鏡という小さいカメラを使用した椎間板ヘルニアの手術です。傷が小さく、筋肉のダメージも極力抑えることができるため侵襲の少ない手術です。
MED(内視鏡下腰椎間板ヘルニア摘出術)に代表される腰椎椎間板ヘルニアの低侵襲手術は、傷を小さくして、筋肉のダメージも抑えることで手術時間も短く、出血量も少ないため、患者様への負担が少なくなります。
また、術後の痛みも従来の方法より少なく、術後早期に動くことが可能です。低侵襲手術では、従来法と比べても、入院期間が短縮されており、通常は術後2~3日で退院できます。
さらに、身体に対する負担が少ないだけに、術後早期の日常生活復帰、早期の仕事復帰(社会復帰)が可能になります。
下肢の痛みなど、元々あったヘルニアによる症状がどれだけ残るかはケースによって異なります。手術の翌日には痛みがなくなったという人もいれば、徐々に痛みが減少していく人もいますが、時間がかかっても2-3週間程度で落ち着く場合がほとんどです。

2. 椎間板内治療
椎間板ヘルニアの主な椎間板内治療は椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)と呼ばれるものです。
この椎間板内酵素注入療法は、椎間板内に、椎間板にしか作用しない酵素を含んだ薬剤(ヘルニコア)を注入します。
これによって椎間板の組成が変化し、ヘルニアを消失させることを目指します。
局所麻酔下で、日帰りでできる治療のため、手術よりは負担は少ないことがメリットですが、注射してからすぐには効果が表れず、症状が軽減するまで平均1ヵ月程度かかるため、すぐに痛みをとりたいとお考えの方にはおすすめはできません。
また、奏効率は7割程度と言われているため、確実にヘルニアの症状がとれるわけではないということも忘れてはいけません。
手術費用やリハビリ、再発リスク
腰椎椎間板ヘルニアの手術費用は、病院やヘルニアの状態、治療法によって異なります。
保険適応(3割負担)の場合は、MED(内視鏡椎間板切除手術)なら約25万円〜40万円ですが、高額医療費制度を申請することで、自己負担額は、約10万円程度となります。収入や年齢により異なりますので、詳しくは病院までご相談ください。
手術後の再発リスク
ヘルニアを手術で摘出しても、再発が起こるリスクは残念ながらなくなりません。椎間板ヘルニアは、繰り返し発症するリスクのある病気です。残念ながら、ヘルニアは虫歯と同じで、治療をしても、その後どんなに気を付けていても、また起きることがあるもの…とお考え下さい。
元々の椎間板自体の傷がふさがったわけではありませんので、いったん手術によりヘルニアが取り除かれても、椎間板自体の傷から髄核がまた漏れてヘルニアが再発することはあります。
ヘルニアをきれいに取り除いても、再発のリスクは10%前後と言われています。
しかし再発した場合、必ずしも手術が必要なわけではありませんのでご安心ください。症状が軽い場合は薬物療法やリハビリなどの保存治療でも症状の緩和を期待するができます。
ただし、再発で強い痛みが生じる場合は、やはり、手術が必要となります。一般的には、初回と同じ手術で治療可能ですが、細かい術式は状態によっても異なってくるので、担当医とよくご相談ください。
手術後のリハビリ
術後、患部の痛みが治まり、体を動かせるようになったら、痛みの範囲内で無理なく早めにリハビリを始めることがすすめられます。手術の傷が落ち着いていれば、そこまで気を付けることは多くありませんが、注意すべき術後の禁忌事項は「術後早期から激しい運動をすること」です。症状が改善したことで、つい早くスポーツに復帰したくなると思いますし、その患者様の気持ちは理解できます。
ただし、早期から腰に負担がかかりすぎると、ヘルニアの再発リスクが高くなるという報告もあるので、焦りは禁物です。徐々に運動負荷を強くしていきながら、術後1ヵ月程度でのスポーツ復帰を目指すようにしましょう。
椎弓切除術(除圧術)を行ったあとは、数日間の安静が必要と勘違いされることがありますが、手術した翌日から歩行が可能であり、リハビリテーションも翌日から開始していただきます。また、傷に影響するからずっとうつ伏せでいなければいけないと思われることもしばしばありますが、それも完全な誤った情報です。手術した当日からベッド上では自由に寝ていただいて大丈夫です。一般的な入院期間は2~3週間程度と言われていますが、当院では傷をなるべく小さくして、筋肉などのダメージも最小限に抑える手術を行っておりますので、当院での入院期間は5~7日程度です。
日常生活上の注意点
日常生活での注意すべきポイントをまとめておきましょう。
禁煙
喫煙者は椎間板ヘルニアの発症リスクが高いとされています。ヘルニア患者と関連がある環境因子について多数の報告がされていますが、明らかに悪影響を及ぼすことがわかっているのは、現在のところ、喫煙のみです。(*3)
ニコチンにより椎間板周辺の毛細血管の収縮が生じて、椎間板の血流低下が起きることが原因と考えられています。その血流低下により椎間板が脆くなり、ヘルニアの発症リスクが高いと考えられ、禁煙がすすめられます。

物の持ち方・座り方・家事
最も腰に負担がかかるのは、「中腰のとき」や「重いものを持った」ときです。重いものをできるだけ持たないように心がけ、中腰の姿勢を続けないようにしましょう。
ものを持ち上げるとき、立ったまま前かがみになり手を伸ばして物を掴み、上体を起こすことでものを持ち上げる方法は危険です。腰を落として自分のほうへ引き寄せてから持ち上げたり、決して中腰でものを持たないようにしたり、注意。(*Q)
自分より高い位置にあるものは台を利用して背中をそらさないようにしたり、物を移動させるときはできるだけカートを利用したりと、腰に負担をかけないような工夫も必要です。
つづいて日常動作での注意点です。
床に座る場合、あぐらは、正座や横座りより腰に負担がかかりますので極力あぐらはかかないようにしましょうイスに座る場合でも長時間座位をとりつづけると腰に負担がかかるため、短時間でいいので、立ち上がったり、ストレッチをしたりと、休憩をいれるようにしてください。
運転の際は、運転席に深く腰掛けて、背中をシートに密着させた状態で、足がペダルから離れ過ぎないようにシートを調節します。運転中は、適度に休憩をとり、車の乗り降りの際にも腰に負担をかけないよう注意してください。
家事動作でも注意が必要です。
掃除機をかけるときは、ホースを身長に合わせて調節し、できるだけ上半身を起こした姿勢で行います。
屈まなければならないときは、中腰にならずに、ひざをついて屈むようにしてください。
寝る姿勢
腰椎椎間板ヘルニアの人は、仰向きで寝ていると足腰に坐骨神経痛の症状(痛みやしびれ)が出てしまうことがあります。
仰向きで寝ると、腰椎が反ることで、ヘルニアで押されている神経がさらに圧迫され、痛みやしびれが出ることが多いと言われています。
そのため、推奨されるのは症状がある側を上に、症状がない側を下にした横向きの寝方です。それだけでは痛みが出てしまう場合、腰のくびれ部分に幅10センチくらいに細長く折ったタオルを敷くなどして、微調整をするとより楽になることもあります。

安静にしすぎない
腰椎椎間板ヘルニアの患者様に見受けられることですが、腰痛や下肢痛を恐れるあまり、安静にしすぎてしまう傾向があります。もちろん適度な安静は症状緩和のために必要ですが、長期間安静にしすぎることは必ずしも腰にとって良い状態とは言えません。
安静にしすぎることで、体幹の筋力が落ち、かえって腰に負担がかかる場合もあります。
加減が難しいところですが、疼痛の範囲内で、可能であれば日常生活に復帰したり、仕事に復帰したりすることも重要です。
なかなかご自身で判断するのは難しい場合もあると思いますので、遠慮なく脊椎専門外来でご相談ください。
(*3)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(改訂第 3 版) 34頁
腰椎椎間板ヘルニアのセルフチェック
腰椎椎間板ヘルニアは、多くのケースで自然に治っていくことが知られています。しかし中には重症化し、慢性的な痛み、しびれに悩まされるケースがあることも理解しておきましょう。
重要なのは、自分の症状が自然治癒するかどうかは自分ではわからないということです。その点を確かめるうえでも受診し、腰の状態を確認することがすすめられます。
まずは、次のセルフチェックを行ってみてください。
- お尻から足にかけてしびれ
- 痛みがある
- 足に力が入りにくい
- 慢性的な腰痛・足の痛み・しびれがある
- 時々ぎっくり腰になる
- 長時間立ち話ができない
- 洗面が辛い
- 掃除機をかけるなどの家事が辛い
- つまずきやすくなった
- 座って作業することが辛い
- 散歩できる時間が減った
もしもこうした項目で該当するものがあれば、一度受診して検査を受けてみることをおすすめします。
まとめ
腰痛は非常に多くの人が悩まされている症状です。その腰痛は、ひょっとすると腰椎椎間板ヘルニアによるものかもしれません。
腰痛に始まり、足にしびれや痛みが出てくるようでしたら、いよいよその可能性が高いと疑ってみてください。
気になる人はぜひ当院の脊椎専門外来を受診し、病状や治療方法を確認しましょう。腰椎椎間板ヘルニアはきちんと対応すれば治せる疾患ですが、誤った認識をしていると治療のタイミングを逸して症状がずっと残ってしまう場合もあります。この病気を正しく理解して、正しい対処をすることが快方へのいちばんの近道となります。


