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- 腰椎すべり症とは:積み木のように重なる腰の骨が前後にずれる病気で、腰痛や足の痛み、しびれを引き起こします 。
- 主な原因と特徴:加齢による変性が多く、特に40代以上の女性に多く見られますが、若年層のスポーツによる分離症から発展することもあります 。
- 診断と治療:レントゲンやMRIによる正確な診断が重要で、保存療法(薬・装具・注射)で改善しない場合は、低侵襲な手術(除圧・固定術)も検討されます 。
- 日常生活の注意点:一度ずれた骨は自然には戻らないため、腰を強く反らす・ひねる動作を避け、専門医の指導のもとで適切な運動を行うことが大切です 。
腰椎すべり症とは
積み木のように重なった骨が前や後ろにずれることで起こる「すべり症」。一般的に、首や背中ではなく腰の部分の腰椎と呼ばれる骨がすべることが多いため、「腰椎すべり症」とも呼ばれます。40代以上の女性に多いのが特徴(*1)ですが、若年でも、高齢になってからでも、全年齢で性別を問わず、誰にでも起こり得る病変です。
*1 日本脊髄外科学会 腰椎変性すべり症

背骨の中でも腰椎の第4腰椎(L4)、第5腰椎(L5)で多く起こります(*1)。ずれた腰椎により、脊柱管の中を通る神経が圧迫されてしまうために、腰痛や足の痛み、しびれといった症状が出ます。
初期症状としては腰痛を感じることもありますが、全く症状がない場合もあります(*2)。病状が進むにつれて、椎間板が突出してしたり、黄色靱帯が肥大したりすることで、腰部脊柱管狭窄症と同じ「間欠性跛行」が起きることがあります。これは、歩くと足の痛みやしびれが起こりますが、少し休めばまた歩けるようになるという症状です。
また、ずれた椎体で神経が圧迫されることで、腰椎椎間板ヘルニアと同じような、片足の痛みやしびれを生じることもあります。

さらに悪化していくと、安静時にも足の痛みやしびれを感じるようになります。脊柱管がの圧迫が軽度で、腰椎の不安定性がメインの場合は、腰痛が主な症状になります。
*2 日本整形外科学会 腰椎すべり症
腰椎すべり症の種類
腰椎すべり症には、大きく分けて3つの種類があります。
腰椎変性すべり症
老化により、椎間板や椎間関節に異常がおき、腰椎がずれてしまうというケースです。40代以上の女性に多く、第4腰椎と第5腰椎で起こりやすいのが特徴ですが、男性でも起こり得ます。脊椎を構成している椎骨が、本来あるべき場所から3mm以上ずれている状態だと、変性すべり症となります。また、ずれた方向によって「前方すべり症」「後方すべり症」という名前がついていますが、多くは「前方すべり症」です。
腰椎分離すべり症(*3)
学生時代に部活動などでジャンプや腰をひねる動作を繰り返すことで、腰椎分離症が発症します。スポーツ選手の30~40%にこの病気が認められます。
症状としては10〜15歳頃から腰痛が始まり、幅広い年代で腰痛や下肢の痛み、しびれをかんます。特に腰を後ろや斜めにそらしたときに痛みを感じます。
この腰椎分離の状態に加えて、腰椎の変形が起こることで「腰椎分離すべり症」に発展してします。分離症は第5腰椎に起こることが多く、このケースの場合、すべり症は第5腰椎と仙骨の間で前方へずれる形で起こります。
*3 日本整形外科学会 腰椎分離症・分離すべり症
形成不全性すべり症
非常に稀ですが、生まれたときから背骨に問題があるため、すべり症が起きているというケースです。腰椎分離も併発していることがあります。比較的若いときから症状が現れます。
また、腰椎すべり症によって、痛みやしびれに悩まされた末に、立ったり歩いたりといった移動するための機能が低下してしまうことがあります。その結果、通称ロコモと呼ばれる「ロコモティブシンドローム(*4)」となり、寝たきりの要介護状態になってしまう危険性もあるので注意が必要です。
*4 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム
腰椎すべり症の原因と症状
腰椎すべり症になる原因として、一番多いのは加齢です。年を重ねると、関節や靱帯、椎間板といった組織の水分が低下したり、椎間関節が肥厚するなど変化が生じたりします。その結果、腰椎の動きが悪くなったり、不安定になったりすることで、腰椎が前や後ろにずれこんでしまうのです。
腰椎には、脳から続く神経が通った脊柱管が通っています。腰椎がずれこんでしまうことで、脊柱管を圧迫すると脊柱管狭窄症と同じ症状が起こります。
「腰椎変性すべり症」で多い第4腰椎と第5腰椎が圧迫されると、おしりや太ももの裏、膝の下、外側のすねに痛みやしびれがでます。
「腰椎分離すべり症」の場合は、第5腰で起こりやすいため、おしりの中心部分や太ももの裏、ふくらはぎ、かかとから足の裏や小指に痛みやしびれがでるほか、つま先立ちができなくなることもあります。また、神経根とよばれる腰髄から枝分かれした神経が圧迫されることで、腰椎椎間板ヘルニアに似たような片側の足の痛みやしびれがでることもあります。
諸説ありますが、重いものを持ち運んだり、同じ動作を繰り返したりするような、腰に負担がかかる動きを日常的に行っている人も、腰椎すべり症になりやすいとも言われています。

男女比では、女性の方が多く発症しており、特に40代以上の女性、とくに閉経後の発症率が多いため、女性ホルモンの減少が骨密度低下や靭帯の弾力性低下を招き、腰椎を不安定にして発症・進行を促進しているのではないか(*1)とも考えられています。
腰椎すべり症の症状
腰椎すべり症になると、どこにどのような痛みが起きるのでしょうか。まずは、自分が腰椎すべり症になっていないかチェックしてみましょう。
<腰椎すべり症チェックリスト>
下記の項目に当てはまる場合は、腰椎すべり症の可能性もあるため、病院を受診してみましょう。
- 腰痛がある
- 下肢の痛みやしびれがある
- 長時間、歩くとお尻やふともも、ふくらはぎなどに痛みやしびれが出る
- 休みながらでないと歩けない
- 前かがみになると症状が楽になる
- 脚に力が入らないことがある
腰椎がずれることで、周囲の腰椎のバランスも崩れてしまうため、脊柱管を圧迫して、腰痛や足の痛みといった、さまざまな症状が起こります。圧迫されている部位によって、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と似た症状が現れるので、見分けるために注意が必要です。
初期の症状で、脊柱管が圧迫されていない場合は、主に腰やおしりの部分に痛みを感じます。脊柱管が圧迫されている場合は、脊柱管狭窄症と同じく、間欠性跛行の症状が現れてきます。歩くことは困難ですが、自転車には問題なく乗って遠くまで移動することができます。
神経根と呼ばれる部分が圧迫されている場合は、腰から足先に痛みやしびれを感じる腰椎椎間板ヘルニアと同じような坐骨神経痛の症状が現れます。足が冷たく感じる冷感やつま先を曲げることが難しくなることもあります。
腰椎すべり症が悪化すると、安静時にも、腰や下半身に強い痛みやしびれを感じるようになり、最悪下肢が動かなくなったり、感覚がなくなったりしてしまいます。その結果、立てなくなったり、歩くことが難しくなったりしてしまうこともあります。
また、腰から馬の尾のように広がる馬尾神経が圧迫されると、この神経は、下肢や膀胱、会陰部、その周辺を支配しているため、肛門が痺れたり、尿漏れや頻尿といった排尿障害や排便障害が起きたりすることがあります。
これらの症状を放置しても自然に戻るのではないかとつい期待をしてしまうかもしれませんが、残念ながら、一度ずれた腰椎は、放置しても自然に元に戻ることは絶対にありません。整体やマッサージに逃げたくなる気持ちもわかりますが、体表から刺激を与えて筋肉をほぐしたりストレッチをしたりしても、からだの深部にある腰椎のずれが改善することはありませんので注意してください。脊椎外科での治療によって症状を改善することが必要なので、気になる症状があれば、医療機関へ相談しましょう。
腰椎すべり症の診断方法
腰椎すべり症は、どのような検査をもとに診断されるのでしょうか。
まずはレントゲン(X線)での検査が行われます。レントゲンは、放射線の一種であるX線を使う数ある検査の中でも一般的に行われているもので、検査は短時間で終わるので、外来受診された当日に行うことができます。
X線は骨の形や配列をみるのに適していて、腰椎すべり症に対しては、椎体のずれやすべりの状態を確認するために行われます。
さらに腰椎を前後へ曲げたり、斜めから撮影することで、よりしっかりと診断を付けることができます。
ただし椎体の配列や、すべりの程度については確認できても、神経を圧迫しているかどうかは知ることができません。
よく「他の病院では、X線検査で医師から問題がないと言われた」と仰っている患者様がいますが、X線検査だけでは腰椎がすべっていることはわかっても、どれくらい神経を圧迫しているのかわかりません。なぜなら、X線検査では神経がうつらないからです。
神経が圧迫されているかどうかについては、MRI検査が行われます。この検査を行うことで、どの程度神経が圧迫されているか知ることができます。
当院では、X線検査で腰椎の形や配列、椎体のずれの程度を確認して、MRI検査で神経の圧迫の程度を評価するという、セットの検査をおすすめしています。
MRI検査とは、強い磁場と電磁波を使った検査方法で、体の内部を画像化します。放射線を使うレントゲンやCT検査と異なり、被曝の心配はありません。検査中は大きな音がしますが、だいたい20〜30分で終了します。
腰椎分離すべり症の場合は、疲労骨折の状態も発見できるので、初期治療に役立つ検査方法です。ただし、狭い空間で強力な磁石を使うため、次のような場合は禁忌とされています。
- MRI非対応の医療機器(ペースメーカーなど)を体内に埋め込んでいる
- 眼に金属片が入っていたり、磁石式の義眼を付けている
- 閉所恐怖症と診断されたことがある
さらに患部の状態を詳しく調べたいときは、CT検査が行われます。この検査では骨の構造的な状態を知ることができ、分離の状態がどうなっているかを検査することができます。CT検査とは、X線を使って体の断面の画像を写す検査です。検査する状況により異なりますが、5~10分ほど寝ているだけで終わります。MRIとは異なり閉鎖的な狭い空間での検査ではないため、閉所恐怖症や狭いところが苦手な方でも、CT検査は安心して受けることができます。ただし、CT検査にも次のような禁忌項目があります。
- 妊娠中または妊娠の可能性のある場合
- CT非対応の医療機器(ペースメーカーなど)を体内に埋め込んでいる
状況によって必要な検査は異なります。また、CTやMRIは検査結果の情報量が多いため、経験や知識のある医師に判断してもらわないと、せっかく受けた検査が無駄になってしまうどころか、誤った解釈の仕方をされてしまう恐れもあります。(まったくパソコンの知識がない人が、非常に高性能で様々な機能のあるスーパーコンピューターを扱うようなものです)。
脊椎疾患に対する知識がある、脊椎専門の整形外科医の診察を受け、正しく評価してもらうことが大切です。
腰椎すべり症の治療方法:薬物・装具療法
腰椎すべり症の治療には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。保存療法とは、具体的には薬物療法やコルセット、理学療法、ブロック注射のほか、腰に負担をかけないように生活することも含まれます。治療を始めるときは、まず保存療法を行った上で、治療を行っても状態が回復しない場合は、手術療法が選択されます。
薬物療法
薬物療法としては、痛みを抑えるための薬が処方されます。具体的には、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、オピオイド鎮痛薬といった痛みを止める薬のほか、筋弛緩薬などが主な処方薬です。
脊柱管を圧迫して馬尾神経の障害が出ている場合には、神経障害性疼痛治療薬であるプレガバリンや馬尾神経の血流を促進する末梢循環改善薬などが処方されます。腰部脊柱管狭窄症と似た症状が出るので、普通の鎮痛剤だけでなく、血液の流れを良くするプロスタグランディン製剤などが処方されます。プロスタグランディン製剤を用いることで、間欠性跛行や足のしびれが改善されることもあるのです。
そして腰椎すべり症を発症しやすい中年女性に多い病気の一つに、骨粗鬆症があります。骨粗鬆症とは、骨が弱くなり、骨折しやすくなってしまう病気です。腰椎すべり症と併発しているケースも多いため、骨密度を調べて、骨が弱くなっていると診断されたら、骨を壊す働きを抑える薬、骨を作る働きを促す薬、骨を作り換えるバランスを整える薬といった、骨粗鬆症の薬も処方されます。
コルセットやサポーターなどの装具療法
コルセットやサポーターもよく利用される保存的治療法です。
正しくない姿勢は、腰に影響を与えます。特に骨盤が前傾し、座骨が後ろに出っ張った状態になる「反り腰」は、変性すべり症に多い前方すべり症の場合、より骨を前に滑らせる一因になってしまいます。反り腰を改善するためには、体幹を安定させることが必要です。身に付けることで体幹を安定させることができるコルセットは、腰椎すべり症の対策として有効な方法なのです。
ただし、一日中コルセットを身につけたり、きつく巻きすぎたりすることは、腰回りの筋力低下につながります。痛みなどの症状が強いとき、腰に負担をかける作業をするとき、長時間移動するときなど、ピンポイントで腰を支えるために利用することが大切です。
コルセットには大きく分けて、軟性コルセット、硬性コルセットの2種類があり、腰椎すべり症の場合は、一般的には軟性コルセットを使用することが多いとされています。
巻くときは、コルセットの上の部分がへそ、下の部分が骨盤の上になるよう意識して配置します。まずは、内側部分を引っ張りながら巻き、次に外側部分も引っ張りながら巻いてから、テープ部分も同様に引っ張りながら巻くという手順です。苦しいと感じるときは、位置が上になりすぎている可能性があります。直接肌に巻くことも、かぶれの原因になるので避けた方がよいでしょう。また、深呼吸をしてみて苦しいと感じたら、きつく巻きすぎているので、少し緩めましょう。
理学療法
コルセットに頼らず、体幹を安定させるにはインナーマッスルを鍛える必要があります。インナーマッスルとは、体の深い部分にある深層筋と呼ばれる筋肉です。腰椎すべり症に関わるインナーマッスルには、一番深い場所にある腹筋である腹横筋、呼吸をするときに欠かせない横隔膜、腰や背中の深い場所にある多裂筋、尿漏れなどに関連する骨盤底筋群があります。
これらを鍛えるトレーニングは、腰椎すべり症の症状緩和にはある程度の効果はあると言われています。ほかにも体幹や下肢のストレッチも行われます。どのトレーニングも、症状が悪化しないように理学療法士のもとで実施します。
ほかにも、患部を温めたり、電気で症状がある部分を刺激したりして、痛みの改善をはかる物理療法という方法もあります。温熱療法は、患部を温めることで血流を促進し、痛みを和らげる方法です。電気を使う方法では、皮膚よりも深い体内に作用する周波数の電波を用いることで、凝り固まった筋肉をほぐして痛みをやわらげます。
腰椎すべり症の治療方法:ブロック注射
保存的治療法のひとつに、ブロック注射という方法もあります。ブロック注射とは、末梢神経やその周辺に局所麻酔などを注射することで痛みを軽減させたり、血流を改善させたりするものです(*5)。
*5 日本ペインクリニック学会 神経ブロック
ブロック注射にはさまざまな方法がありますが、主に用いられるのは神経根ブロックと硬膜外ブロックです。
神経根ブロック
レントゲンで神経を写しながら、脊椎から出ている神経の根元やその周囲に注射を行うことで、神経伝達を遮って痛みを取る方法です。痛みのある神経を確実にとらえて、局部麻酔を打ちます。造影剤を使用して、痛みが起きている神経の状態も調べられます。
一度注射したら1~2週間は間隔をあけたほうがよいので、1ヵ月に3回くらいが限度と考えてください。
<一般的な手順>
- うつむきに寝ます。枕などを使い、針を刺す場所が水平になるように調整します。
- レントゲン装置で骨や神経の位置をみながら、針を刺す場所を決めます。
- 消毒を行ってから注射を行います。
- 神経の近くに針が届いたら、造影剤を注入します。このとき圧迫感や放散痛を感じることがあります。
- レントゲン写真を撮影したのち、局所麻酔薬などを注入します。
- 針をぬいて、1時間ほど安静にしてから帰宅します。
硬膜外ブロック
脊柱の中には、脊髄神経が走っています。その神経をつづんでいる硬膜と呼ばれる薄い膜と、背骨の間には硬膜外腔と呼ばれている空間があり、その部分に注射を行うのが硬膜外ブロックです。両側の下肢にも痛みやしびれがある場合に有効な方法で、脊髄神経に麻酔をかけることで、脳に伝わる痛みを止めることができます。一般的に外来で行う硬膜外ブロック注射は「仙骨硬膜外ブロック注射」です。
仙骨(お尻の骨)の穴から針を刺し、硬膜外腔に局所麻酔薬と少量のステロイド剤を注入して、神経の痛みを遮断します。さきほど説明した神経根ブロック注射と似ていますが、レントゲン装置を必要としないため、外来の診察室で簡単にできるというメリットがあります。
このブロック注射で、腰痛や下肢痛といった症状の、部分的で一時的な改善を見込むことができます。しかし、こうした注射はあくまでも姑息的治療(病気の根本的な原因を治すのではなく、現れている症状を和らげたり、一時的にしのいだりすることを目的とした治療法のこと。「ずるい治療」「卑怯な治療」という意味ではありません)であり、根本的治療ではないため、痛みなどの症状をすべて改善することはできません。
これらの保存的治療法を行っても症状が改善しない場合や、耐え難い痛みやしびれがあったり、力が入りにくなったり、排尿障害がおきていたりと、すでに日常生活に支障を来す程度にまで神経症状が進行している場合は、早い段階での手術療法が選択肢として挙がってきます。
腰椎すべり症の治療方法:手術療法
腰椎すべり症は、保存的治療法を行っても症状が緩和されなかったり、、次のようにすでに神経症状がかなり進行していたりする場合は手術療法の適応になります。
- 立つことや歩くことが難しくなり、日常生活で不自由を感じている
- 排尿や排便とといった、膀胱直腸障害が出ている
- 痛みがどんどん強くなっている
- 間欠性跛行により、1度に歩ける距離が100m以内になってしまう場合
昔は広い範囲を切開する必要があった腰椎すべり症の手術。それだけ患者側への負担も大きく、時間もかかっていました。しかし、近年は手術時間も1〜2時間ほど、入院期間も1週間前後で済むケースも増えてきました。そのことをご存じな患者様も多く、根治治療を目指して手術療法を選択する患者様も増えています。
手術には、神経の圧迫を取ることを目的とした椎弓切除術(除圧術)と、不安定になりすべっている椎体を安定させる固定術があります。一般的に固定術を実施する場合は除圧術と併用することがほとんどのため、固定術は「除圧固定術」と呼ばれることが多くなっています。
椎弓切除術(除圧術)
椎弓切除術は、背中の皮膚を縦に切り開いて、脊柱を圧迫している背骨の一部や靭帯、関節突起の一部などを取りのぞき、神経の通り道を広げます。
切除する範囲によって、2つの種類があり、狭窄の程度が高度であったり、複数の狭窄があったりする場合はは「広範囲椎弓切除術」、狭窄部位が限定されていて一部だけの切除で十分な場合は「部分椎弓切除術(開窓術)」が行われます。

<一般的な手順>
- 腰から背中の皮膚を5㎝程度切開して、筋肉をよけて、腰椎にアプローチします。この際、なるべく筋肉を損傷せずに操作をすすめることができます。
- 脊髄の圧迫の原因となっている原因を切除します。脊柱管を広げて圧迫から解放するようにします。黄色靭帯や椎間板ヘルニアが脊髄を圧迫している場合は、それらも取りのぞきます。
- 神経の圧迫が取れたことが確認できたら、皮膚を丁寧に閉じて終了です。
椎弓切除術(除圧術)を行ったあとは、数日間の安静が必要と勘違いされることがありますが、手術した翌日から歩行が可能であり、リハビリテーションも翌日から開始していただきます。また、傷に影響するからずっとうつ伏せでいなければいけないと思われることもしばしばありますが、それも完全な誤った情報です。手術した当日からベッド上では自由に寝ていただいて大丈夫です。一般的な入院期間は2~3週間程度と言われていますが、当院では傷をなるべく小さくして、筋肉などのダメージも最小限に抑える手術を行っておりますので、当院での入院期間は5~7日程度です。
固定術
椎弓切除形成術で神経への圧迫を取り除いたあと、ずれたことで不安定になっている骨を安定させることを目的として、固定術が行われることがあります。これは問題となっている箇所の背骨部分を、自分の骨やネジを使って固定させる方法です。事前の診断で、背骨がぐらぐらしていると判断されたときにも行われます。

固定術にもさまざまな種類があります。
PLF(腰椎後側方固定術)は背中から切開して、椎骨の後端が隆起して突出した棘突起や椎弓を切り除き、椎間関節を削ることで、神経の圧迫から解放させます。そののち、スクリューで固定したり骨移植を行ったりすることで腰椎の安定性を回復させます。一般にPLFが適用になるのはすべりの程度や不安定性がわずかな場合です。
PLIF(後方進入椎体間固定術)も基本的には同じ方法です。背中から切開し、椎骨の突出した部分を削除して神経の圧迫を解放し、左右の椎弓の一部を取りのぞきます。脊髄神経を左右によけてから、椎間板を切除し、自家骨を移植します。その後、ケージと呼ばれるスペーサーのようなインプラントを入れることによって、椎体を安定させます。最後に、PLFと同じようにスクリューやロッドを使って固定させます。
また、TLIF(経椎間孔進入椎体間固定術)も、基本的にPLIFと同じ方法ですが、片方の椎間関節を切除した後、ケージを挿入してから固定します。切除範囲がPLIFよりもTLIFの方が狭くなるため、出血量を抑えることができ、体への負担がPLIFよりは少ないという点が大きな特徴です。当院ではこのTLIFを実施しており、体への負担をなるべく抑えるようにしています。
固定術の術後は、術2日後から歩くことができるようになります。入院期間は一般的に3~4週間程度と言われていますが、当院では傷を小さくして、筋肉や骨へのダメージを極力抑えた手術をしておりますので、当院での入院期間は1週間程度です。
退院後は日常生活が可能ですが、最初の3ヵ月は柔らかい軟性コルセットをしっかりと装着していただきます。術後3ヶ月の時点で、外来でレントゲン検査やCT検査などを行い、経過に問題がないことが確認できれば、日常生活ではコルセットを外してもよく、その後の3ヵ月は運動時のみコルセットを使用していただきます。
術後6カ月の時点で、画像検査で経過に問題がないことが確認できれば、完全にコルセットを外すことを許可いたします。
手術のリスク
腰椎すべり症に限らず、手術には多少の合併症のリスクを伴います。また、手術をしても足にしびれが残る場合や、固定術で筋肉を切除したことで、術後に痛みを伴うこともあります。
椎弓切除形成術(除圧術)のリスク
深部感染、神経症状の残存・悪化、血腫、深部静脈血栓
固定術のリスク
上記の除圧術のリスクに加えて、スクリューの折損や緩みといったインプラントに関連したトラブルさらに、もともと脊柱側弯が高度であったり、、骨粗しょう症を合併していたりする場合は、スクリューが緩みやすいので注意が必要です。
術後のリハビリ
術後は、コルセットを装着した状態で、早く日常生活へ戻るために、歩行練習や階段の上り下りなどのトレーニングや体幹トレーニングが行われます。
術後の生活
腰に負担がかからないように、姿勢に気をつけたり、腰に負担がかかる運動や作業を控えたりする必要があります。また、加齢に伴う骨粗鬆症も合併している状態の場合、骨を接合させた部分が弱くなってしまったり、スクリューが緩んだり抜けたりする可能性もあるため、定期的に病院で手術した部分をチェックしてもらいましょう。
腰椎すべり症で手術を検討されている方、長期間にわたり痛みやしびれにお悩みの方は是非一度ご相談ください。
腰椎すべり症に対する運動注意点
一般的にストレッチなどが腰痛対策に有効と言われますが、腰椎すべり症に限っては、はっきりとした予防効果がわかっていません。しかし、多少なりの効果は期待できるものもあるので、それらを紹介いたします。
ウォーキング

ウォーキングは、腰椎すべり症自体の改善はできませんが、症状の緩和には多少の効果はあると言われています。歩くときは腰に負担がかからないように、姿勢をただして、歩幅をひろくとりすぎないように気をつけましょう。
エアロバイク
腰に負担をかけずに脚力を鍛えることができます。
ストレッチや筋トレ
これは腰椎すべり症に特化したトレーニングというわけではありませんが、背骨を安定させることを目的に、体幹を鍛え、体の柔軟性を維持するためには、次のようなストレッチや筋トレが有効と言われています。
(1)腰の周りの筋肉を伸ばす

仰向けで寝ます。両膝を曲げて、両腕で抱えてゆっくり胸に引き寄せ、20~30秒キープします。
(2)背中の筋肉を伸ばす

椅子に座って、腕を前に突き出して手を握ります。腕とお腹の間に丸い球があるイメージで腰を丸めて、5~10秒キープしてから戻します。
(3)スクワット

足を広げてつま先を斜め45度外に向けます。お腹を引き締め、膝に手をおくようにして太ももが床と平行になるまで腰を落とします。足を閉じる力を使って、体を元に戻します。
避けた方がよい運動
腰椎すべり症と診断された場合、腰に負担がかかる動きを避ける必要があります。絶対できないわけではありませんが、可能であれば避けた方がよい運動としては、ゴルフなどの腰に負担がかかるスポーツや、サッカーやラグビーなど選手同士が接触する激しい競技が挙げられます。
また、腰の前屈・後屈を繰り返したり、腰を何度もねじったりする動作も避けたい動きの一つです。なぜなら、腰椎すべり症は、積み木となっている背骨が不安定にぐらついている状態のため、これらの動きを繰り返すことでさらに安定性が失われ、脊髄の圧迫が進行して、症状の悪化に繋がる可能性があるからです。。ヨガ、ピラティスなどは一見健康に良さそうではありますが、中には腰を激しく反らせたり、ねじったりするような動作があるので注意が必要です。ヨガやピラティスをすべて禁止する必要はありませんが、腰に負担のかかる動作は部分的に避けるなど、すべり症を悪化させないために工夫をしていきましょう。
まとめ
腰は身体を支える「要」であり、腰に由来する痛みやしびれは、歩く・立つといった日常の動作に大きな影響を及ぼします。腰椎すべり症は命に関わる病気ではありませんが、放置すると腰痛や下肢の痛みだけでなく、長く歩けなくなる間欠性跛行や、さらに進行すると排尿・排便のトラブルを引き起こすこともあります。
一方で、早い段階で正しく評価し、適切な治療を行えば、症状の改善や生活の質の維持が十分に期待できます。近年の脊椎手術は安全性が高く、体への負担も少なくなっています。少しでも腰や下肢に違和感があれば、我慢せず脊椎専門外来へご相談ください。


